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今日は夫の母、おかあさんの、誕生日。私のそれの翌日なのだから、わすれようも無い。

今は奈良市内のリハビリ病院に入っておられる。新しい建物で、窓から縁がたっぷり見えます、と紹介されている。廊下は広くて壁も柔らかい材質で、たくさんの若い方々がキビキビ働いていて、とても素晴らしい病院に見える。

その、二階の一室、四人部屋。どの方の周囲も豊かなドレープのカーテンで、隙間なくみっちりと囲まれている。

内側に入ると、カーテン以外何も見えない。おかあさんは、入って行った私を見て、ああ、と言った。ほんのり笑って小さく右手を振った。

入れ歯は外したままだ。補聴器も枕元の台の上に置かれている。めがねも同様。

耳も目も、ほとんど機能していない姿だ。どうですかあ。問いかけたくても、大きな声を出さなくてはいけない、おかあさんが応えようとするとまた、大声の返答になって、気がすくむ。周囲のカーテンの中からは、小さな気配も漏れ出てこない。でも確かに、三人、ここにおられる。

あいまいな笑顔のまま、おかあさんは、仰向けの姿勢で、私を見上げている。テレビは無い。持っていたノートに、ざざっと書いて、見せた。

「本くらいは読めるの?」

おかあさんはまた、歯の無い口でニイ、と笑って、ううん、と首を横に振った。自分で腕をたたいて、つかれる。小声で言った。私は、そうかそうかと、オーバーに首を縦にぶんぶん振った。

買って行ったアイスクリームを、食べさせてあげた。ひどい糖尿があるのだが、先日も持って行って、看護師さんに、ほんの楽しみ、少しならいいことにして下さいね、と頼んで、強引に承諾を得ていたのだ。

九十三歳。二か所折れているという大腿骨が、治ったとして。その先、その後、どうなるのか、どうするのか、おかあさん。

たまに、アイスの四分の一カップくらい。三分の一くらい、いいじゃないの。というか。私には、そのくらいのことしか出来ない。

一口ずつ、ゆっくり、口に運んであげた。素直に口をひらいて、おかあさんは、ハーゲンダッツのバニラの小さなカップの、半分ほどを、食べた。

おいしい、と笑った。ありがと、と口の形がその言葉を伝えて来た。

また来るね。口の形で伝えると、おかあさんは、手を取りに来て、握手して、手を撫でて、いっしょけんめい、笑い続けているのだった。真っ白になっている髪を撫でて、手を振って、カーテンの外へ出た。

また、来ると思う。このひとのこと、好きでなかったんだけど。





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2019.06.12 Comment:11
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