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明日は首を洗って



イメージ短歌

      身を散らし国を守りしひとびとの涙か元号の変わる日の雨        
                                   何茶手くおん の詠める


重い、苦い、眠りからの、重い苦い目覚め。

自分のベッドにいるのは判る。いつ着替えたかわからない服のままだとも、わかる。自分自身で不快なほど、臭いや。どす黒い夢の残渣や。ああそうだ、何より、あの男。初めは明るく軽快な異国人をよそおって、飲み物や食べ物を運んでいた、あの・・あの部屋は、いったい、どこだったのか。鎧戸の向こうに春の空が垣間見え、どこもここも白くて、清潔で、自由は与えられなかったが、封じ込められていた感はあったが、なんとか気楽な息をしていられたあの、部屋は、どうなったのか。

その前の記憶は、デパートの地下、食品街だった。わけのわからない変な日本語を喋る男が、自分たちを監禁して。自分に。雑子に対して、いいかげん好きな放題、言いたいことをいいまくり、批判し説教し、黙れと威嚇しても平チャラでいた、〇臣なども鼻先で転がされていた、バイコにだって説教した、自分で落とした物は拾えと。命令しておった、腹立たしかったアヤツは、あの後。どうなったのだったか。

いつも貸し切りにして買い物をする時の通路だったあの道から、車を回させて、帰るつもりだった。多くの誰だったかを待たせていたように思う、中華を食べに行く手はずで。その後は酒の場へ。そうだ、バイコの気に入りの「ノビタ」君の、両親も呼んでいたのだった、バイコには友達がいなくて。ノビタ君のことは気に入っていたのだ、運動会で一緒にダンスしていたし、腕を恋人つなぎにからませてキゲンのいい二人を、連れて、遊びに連れて行ったこともあった、いや、それは、バイコがもっと幼かった頃だ、ではいったい、あの日バイコが、遅刻をおそれて焦って、デパートのジャムの棚を、がんがらがっちゃ~ん、とやってしまったのは、では、では、いつのことだったのだ?。

どうやって帰ったのだ?帰ったのなら、なぜ、あの白い部屋にいたのだ? どの時間がどう、歪んでいるのだ? 雑子にはわからない。

いや。もしかして分かっている。薬のせいだ。そう思っている。いろんな種類の薬を、どうしようもなくなればそれをとにかく抑えるために、使い続けて。初めは懇切に聞いてくれた医者たちも、自分の処方以外の薬を、自力で取り寄せて使わないでいられない雑子と知ると、一歩、二歩と、後ずさった。責任をとりかねますと逃げ口上うまく離れて行った。その不安と腹立ちとで、さらに不眠がひどくなったり、眠れたと思えば覚醒できなくなったり。どうしてもマルの傍にいなくならないような時に、どこかの壇上で居眠りが出たり。いきなり周囲が真っ白に光り輝いて、アタマの芯がむずがゆくなって、笑い出さずにいられなくなったり、笑いが止まらなくなったり。

で、今はいったい、本当は、いつなのだろう。

いつからここで眠っていたのか、どの夢が雑子の、本当の夢なのか。

今日くらいは一度、シャワーを浴びて、顔を洗いたい気がする。歯も磨きたい。

歯。歯、か。あの異国の男は、ひどいことを言った。ものすごくひどい事を。

歯並びだけで、ワタシの国ではアナタを、高貴な女性とは見ませんですね。自分は、真っ白な作り物のような固そうなよく揃った歯並びを、ずらりと見せてあの男は言った、笑った。

いきなりの言葉に雑子は、ベッドの上でとっていた朝食の茹で卵を、いっこ丸ごと、飲み下してしまったのだった。

「のっぽんの人々は、呑気と言うかいいかげんと言うか、思っていても口に出さない、でも、あなたの歯並びはひどい、ワタシの国ならそう言われる」

なんだか急に居丈高になって鼻先で笑った、雑子は奥歯を食いしばった・・悔しくて・・でも奥歯は、抜けたままの数本もあって、なかなか充実してはいないのだ。オ母サマガ、歯ノ矯正ハ省の経費デ落トセナカッタカラト言ッテラシタ、ワタシノセイデハナイワ。五十歳をこえた雑子は、そう思って無言を通した。言い返してやりたくもあったのだが、白い肌と金色の髪とを前にすると、ジンカクが変わる。それは本当のことなのである。

雑子の無言で調子に乗ったのか、単にご飯を運んで来る係の筈の白人男は、そこから、ありとあらゆる雑言を、投げつけて来たのだった。

のっぽん国の民族衣装を着こなせない。ふつーの服を着てもだらしない。

日時の約束を守れない果たせない。「ドタデ」「ドタキャン」のヒトと呼ばれている。

母国語を普通に話せない。かといって、グロウバルな他国の言葉もつかえない。「オウ、シュワー」「ライク・ユー」程度しか話せない。しかし数か国語が堪能、と嘘こいて結婚した。ついでに言いますと、ハバド卒業は偽り。ラドkリフでした。東大卒も偽り。父親の引きで数か月滞在、出て来られたのみ。国費留学でオクスフォド留学、においては、一人だけ一単位も取得できずの帰国をなされた。バリバリの外交官であった時代は、ふふ、あったのでしたか?、NO、でしたね。

ムカシのオトコが数人、非業の死を遂げている。無事な男の一人は、何も知らぬ顔でテレビに出ている。

「ワタシの友人の一人は、そのY氏を見るたびに喜んで、わ~、ひでぇんかの昔のオトコが、マジメ顔で難しい話してるわ~、っと、拍手してるのでありますよ」


とかイロイロありますが、と。呆然としている雑子を、冷たい目で見下ろして金髪碧眼のヒゲ男は、ソファに掛けて足を組んだ。失礼ではありませんか。雑子は言ってみた。ふふん、と相手は笑うのみ。

「失礼とは思いませんね。アナタは、私の国の国王を歓迎する晩餐会に、イミテーションの宝冠を乗っけて現れたですね。一目でわかるペラペラの。堂々とレプリカとも呼べないレベルのティアラをかぶって現れた。ワタシの国では、アナタを、ロイヤルとは認めておりませんよ、いや、それ以前から」

わが国はダイヤモンドを多く産出する国、宝飾品を見る目は確かです。その国王の前にね。男は、煙草のごときものをくわえて、うまそうにぷは~、っと、ふかした。雑子もそれを欲しかった。欲しいが、言えない。タバコ一本下さいって、ここで、言えるだろうか。

「あなただけのせいではない、玩具みたいな宝冠を戴くあなたを、そのままにしてあった、周囲の方々もおかしい、あなたの夫君は当然おかしい、ご自分のウィッグの貧相さも限度を超えています。まともではないのですよ、あなたの夫、夫の両親、わたしども、知らない顔で接してはおりますけれどね、まともではない」。

「さしあげませんよ。わが国では合法ですが、のっぽん国では認められていないのです、これは。それに、あなたには、何もあげたくない」。

・・どういう意味だろうか。

「あなた、自分の子どもたち、皆、どこにどうしているか、ご存じないね」

男は、トランプのカードのように、何枚もの写真を両手に器用に拡げて見せた。

「これ、子どもの広場のバイコさん。細くて活発なお子ね。次は、お国の文字の得意で上手なバイコさん。こちらは、運動会でガッツポーズしているバイコさん、私の国ではこの方が、本物のプリンセスかと」。

雑子も忘れている、というか、アタマの中でのファイリングがうまく進んでいないままの何人もの女の子の写真を、馬鹿にし男が、ほれほれと、あおって見せる。

「このお子は、頭蓋骨の奥行きが目立って浅い、下顎が突き出ている、その上、人と愛想よく接することが出来て、結果的に、たいへん、品が無い。   こちらのお子は、なんでかな~、がりがりに痩せていますね、人相まったく違いますよ、しかしマル殿下、にったにたと顔見合わせて笑っていますね~」

「・・・」

「かと思えばたった一年で何もかもが変化してしまったぽっちゃりな子を、並ばせて、親子ですよ~の写真撮らせて」

次々に男は、言われて見れば一緒に駅頭で手を振ったり、映画の試写会の会場で久しぶりに会って、親子で~と横並びで・・あああ、なんでこんなこと、されているのだろう、私は。雑子の頭が、万力でキリキリと、〆上げられる。

「・・どうして私に、そんなもの見せて、嫌がらせをするの」

ようやく声を絞り出した。そんなことしないで。私が何をしたっていうの。

「人をだましましたね、あなたたち夫婦は。しかも子どもを使って」

「確かに一人はいた本当のお子さんを、どうしましたか。どう扱ったか。沢山のダミーは、何の為でしたか。ハキハキ返事をさせるため? たったと歩かせるため? スキーがうまいと想わせるため? つまり男系男子でつまり繋いでゆくことを定めとしているこの国の、たいせつな嗣子を押しのけて、すべてをワタクシする邪心、野望、心得違いの果てのため?どれもみな、間違っていますね。冒涜です」

神への冒涜。娘さんへの冒涜。信じさせられてきた国の方々への冒涜。恐ろしいと思いませんか、平気なこと、それ自体が人としての冒涜ですよ。

・・・この男もまた、私を、責めるのだ。雑子は堪らない。なんで、どうして、このような目に遭わされるのだ。私が何をしたというのだ。この男は何なのだ、何の権利があって私を責める。

「あなたの神なんか、私は知らない。あなたの神って、義母の信じる神なんでしょ。私のは違いますよ。私は神なんかどうでもいい、わからない、私は、神の名前で責められたりしたくないだけなのよ」

「おおう、何と。あなたは神官の。神道の長の家の長男の妻でしたね、たしか。それが、そう、仰せか」

「そんなこと意識しなかった、ただ、あの家に嫁げば、家族皆のためになると」

「拝金教の方々が、押し込んだ」

「神だの仏だの、信じようと思ったこと無いわ、でも義母の神さまって、神道でないの、それは知ってる」

「あなたの義母の神は、それも私には、全く異質のものと認識されます。違います」

白い肌の男は、きっぱりと言い切った。

違う。あなたの夫の母親には、神など存在していない。

「ミテコさまの神は、サタンです」

はああああ?。サタン。何なのよ、それ。

もう雑子には、理解できない。雑子は何もわかりたくない。ああだこうだと言われたくない、それだけなのだ。

「どうしてこんなに重いのよ」

「あなたに負いきれないものを、手放さないで来たから。無理だったのですよ、初めから。あなたはふさわしくなかったのです、それで、娘さんさえ不幸にした。不幸ですよ、あなたのお子さんは。とても不幸です。今どこで、どうしているか、ご存じないのでしょう」

「あの子も私を不幸にしたんじゃないの」

雑子は大声を出した。あの子が。バイコが、あの子でなかったら。こんなに苦しくはなかった。辛くはなかった。なのに。

「あなたは、ひでぇんか、あの娘さんを、一心に、またない存在として、愛されればそれだけで、よろしかったのですよ」

男も大声を出した。

「あなたに授かったお子さまを、愛して、抱きしめて、お育てになられればよかったのです、何をなさらなくてもそれだけでよかったのです、そうだったら、心ある人々は受け止めて、受け入れて、思いを同じくされたのでしょうに」

あなたたちち夫婦は逃げた。周囲も悪かった。それがのっぽん国のロイヤルであると、情けない惨めな話です。

申し遅れましたが、ワタクシはプリンス・ジュッテ。欧州のすべての王国と血統つながりのある、のっぽん国への言語留学生の一員です。

のっぽん国の、一つの区切りを迎えると言う儀式の、間近に迫ったこの時、はじめは、ほんの好奇心によって、この計画に参加しました。あいこく氏にお誘いをいただきましてね。

失礼なことも、あったかも知れません。ひでぇんかに対して。しかし。

ロイヤルの周辺の者共が、勝手にお宝を持ち出して競売にかける。動画も画像も検証も、詳細に出回ってなお、問題視されない。

ロイヤルの嗣子の娘が、何人も用意されて・・と、ワタクシは信じているのでありますが・・粗雑なレプリカのお嬢さんがたの動画や画像が出回ってなお、社会的な問題にならない。

こんなにも不出来な後継者夫婦のありようが、いたずらに擁護されて問題視ならず、即位にまで漕ぎつけるとい茶番。惨状。

よくぞこの数十年、この国は国家の態を保ち得たと。

感心致している次第ですよ。まことに。

ワタクシの母の出ました王国は既に無し。ほかあれこれと、

いや。明日がございます。明日、また。明日こそは、お顔も、そしてお首も、丁寧にお洗いあそばす日に、なられましょう、雑子ひでぇんか。


   このドタバタやっつけ話は、おそらく明日には終わりを遂げるでしょう。
        進展を遂げることも無いままに。     戯作者   KUON



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落としたものは拾う でしょ



    イメージ短歌    「親王の机上に置かれし恫喝を 思うこの国の「きょうき」を思う」

                              「凶器  狂気  狂鬼」
 

10分。解りました。黒服オジサンはうなずいて、レジの所の、食べ物を入れた籠を置くスペースにベチャンとお尻を乗せているオバサン・・ひでぇんかを眺めました。脚をぶらんぶらんさせています。

ひでぇんか。ザツコさま。黒オジは呼びかけました。返事をしません。そこで黒オジはばしっと立って、何やら難しいことを、はきはき言って。

「以上、計3つのご提案です。のっぽん国は無理な押し付けをしてはならないとされている国でございます、今ここにある私も国家には同調する所存、ですので、お選びいただきたく思います。

これら3案、どうお選びになられますか。いかがなさいますか。と。斜めの目でオバサンを見ています。

ひでんぇかは鼻の下をこすったり耳の後ろをぽりぽりしたり、服の中に手を突っ込んでお腹のあたりを掻いたりしながら、フン、ツン、としています。あ、あのう。こうたいしろが、ちょこちょこと小走りにひでぇんかの傍へ寄りました。

「とりあえずここを出してもらいませんか。とにかく何でもいいから、この人に答えたらどうでしょうか。あいこく氏は妥協されない方のようですし、これ以上ここで、時間が、伸びたら」

アイコ・・・ノビタ・・・娘さんがとつぜん反応して、ハッと口を開けて、目もぱっと開いてお父さんを見て

「ちこくだめ。ぱぱ。行く」

しかし、こうたいしろがすぐに答えず、奥さん・・・オバサンに必死に何やら訴え続けているので、娘は怒りました。怒ったのでしょう。

いきなり足踏みをして、ぎいいいっと奥歯を噛みしめる音がして、右手を振り上げると。

ちょうどその位置にあった、パスタやマカロニやスパイスの小瓶などの棚に、思いきり手をぶち当てました。棚の中身を力任せに押しました。

凄まじい音がしてざらざらと落ちるパスタ類、転がるアンチョビの瓶ピクルスの瓶、パセリセージアンドメリーアタイムとかの小瓶たち。缶入りのソースたち。ひでぇんかは、音は聞こえたのかチラリと見て、あ~あ、と大きな欠伸をしています。

最後のレトルト袋が乾いた音を立ててパス、と落ちて、

静寂。

あ、と、今は表情を失って立ち尽くす娘さん。両手がもじもじして、心細い姿です。呆然としながらも微笑していたこうたいしろ・・お父さんが、今度は娘のところへ走り寄り、だだだ、と。大丈夫だよ、と、慰めます。

「い、いや大丈夫。怪我は無いね、はいはい。

可哀そうに、バイコはこわい思いをしてしまったんだね、ひどいことをする乱暴な人がいるからね、ええっと、今は誰も何もしていないのか?? ん??  と、ともかく、ろバイコを守れるように対処をしてあげますからね、気にいらない人はどこかへ行けばいいんです、以前もイジワル男子を追放してあげたでしょう? そういう力がバイコのパパにはあるのよ、だからもうコワクない気にしなくていいんだよ」

いえ。気にして頂きましょう。

「ばいしんのう殿下。商品をお拾いなさいませ」。

黒オジの声です。どっしりした重い声。

「ご自分が、怒りを抑えることかなわずして、手を振り上げてなさったことです。落とされた物をお拾い下さい。不可能ならば、元のように並べろとまでは望みません。拾い上げて下さい。毎朝店員が、ホコリを拭ったり位置を揃えたり、このデパートには大切な商品です。落としたものは拾われるが筋」

何をごちゃごちゃ言ってるのよ。ついにオバサンが大声を張り上げました。

「こんなところへ私たちを閉じ込めて、訳の分からないこと言って、因縁つけて私を貶めて悪口言って、バイコにまで恥をかかせるつもり。この子には屈んでモノを拾わせたことなどありません」

「それがそもそもお考え違いです、ひでぇんか。ばいしんのうさまは、いずれ、野におりてご家庭を築かれる御身。自らが落としたモノを拾うなどは、ご身分お立場に関わらず、人として当然のこと、それが困難であられるなどは、親なき後のご本人の御苦労のタネにてございましょう」

「何のために使用人がいるのよ、馬鹿言わないで。この子が落としたものを拾うくらいの仕事をしないで、どうやって厚かましい、あれらがお給料なんかもらえるのよ」

「お住まいにお仕えする者は、そういったことのためにいるものではございません」

「まああた、変な理屈を。早く出しなさい、ここから」

「付け加えて申さば」

「うるさいわねえ、ばか」

「大きなお節介を申します。ひでぇんかがそのお考えでは、働く者もまともには働きません。そのひずみが後には、国家の存亡に」

「黙りなさい」

「ひでぇんかのお住まいにて仕事をする者は、ご滞在の折りのひでぇんかのご両親の、私用を承る立場でもございませんよ」

静かにば黒オジが言って、ふふ、と笑うと、ひでぇんかは、怒りで真っ赤になってこちらへ寄って来て。

ジャムの置かれた棚からまっすぐに、全身、黒みがかったぐれんのほのおに包まれた姿が見えたので、ジャムは・・・恐ろしさに、しっしんしそうになってしまいました。

・・・じじつ、一瞬、気を失っていたのかも知れません。

ふと気づくと、目の前のオバサン・・・ひでぇんかのアタマには、さっき生えていた角も無いし、口だって、頬っぺたのところまで、ウィイイイン、と裂けている、なんてことはなかったので。何を見たのでしょう、ジャムは。

あなたはっ。ひでぇんかは、自分と同じくらいの背丈の黒オジの、胸倉を、ものすごい迫力でぐいと掴みました。

おおっ。

ジャムの背後から嘆声が漏れました。しかし黒オジが、少し、クイっと体を捩じると、ひでぇんかの手はあっさりと体を離れてしまったのです。おおお。また、嘆声が響きます。

ばいしんのう様、お拾いなさいませ。優しい声です。

「お出来になりますよ。そうです、この籠に、そうっと、拾って、お入れなさいませ。一つずつね。そうです、ゆっくりでよろしいのです。お出来になります、お拾いなさいませ」

娘さんは、いくらかギクシャクながら、座って、買い物用の大きな籠に、落としたマカロニやオリーブの瓶など、入れ始めています。

「思い出しましたよ、そうでした」

こーたいしろが言いかけました。黒オジは、ついと屈んで、床に広がっている娘さんのスカートの裾をつまんで、丸出しになっている二つの膝を、隠してあげました。

時間です。

どこかから声がしました。

解った。黒オジは短く応えて、こうたいしろのほうに顔を向けます。へらっと、こうたいしろは笑いました。

「そう言えば子どものころ、私も、教えを受けました。父や母のおりません時にも、おります時にも、私に、なにやかや教えてくれた者がおりました。ずっと一緒だった気も・・・名前は・・・ええと、忘れてしまって・・・」

「ほーちゃん、と、お呼びであられたとか」

「ああ、そうだ、そうでした、ほーちゃん。どうしてご存知ですか、ほーちゃんでした、厳しい人で、よく叱られましたし、時には褒めてもくれ・・・もちろん後片付けもさせられました。我慢が大切と、お預けも仕込まれたんじゃないかなあ・・・常に相手の立場に立ってお考えになられませ、とか・・・それって、どういう意味だったのか・・・思い出せませんが・・・聞いた覚えがある感じがある気がしないでもなく・・・そうでした、時には手を、ぴしゃんと叩かれたことも・・・」

何を懐かしがってるのよ。パシ、と乾いた音が響き、ジャムは思わず目をつむります。

すぐに目を開けると、こうたいしろの顔の前に腕を突き出して守っているみたいなかっこうのオジサンが、口をぱくぱくさせて呆然と気をつけ、しているこうたいしろに、飲み物を持ってくるよう、目配せしているところ。空手遣いだな、あの黒服。そんな声がして、そうなのね、と、ジャムは納得します。

こうたいしろは、鼻のへんを、殴られそうだったのかしら。鼻、大きいのは、いつも叩かれているから?。

飲み物を取りに行くのか、黒服の一人が動きました。私はコーラよ。ひでぇんかが叫びました。

「ロング缶よ」

・・・

「飲み物も出さずに椅子も用意できないなんてふざけたこと言って、私にひでぇんかを止めろだのどこかでひっそり暮らせだの言って。とんでもないわ、国民の模範になれとか、もはんって何のことよ、ってのよ。」

プルトップをがしっと引いて、ぐああ、とひでぇんかは、缶のコーラを仰ぎ飲みしました。脚を踏ん張り左手は腰っ。

「国民こくみんって。私に何の関係があるのよ。みんな勝手に外国へも行ってるじゃないの。好き放題してるのはあっちでしょ、それなのに国民の面倒見ろなんて、結婚する前、誰に言われたことも無いってのよ」

ひでぇんかはぶつぶつ呟いています。

こうたいしろは手に持ったお茶の缶を両手で包んで立っているのみ。

こっそりと、見えないあたりは黒服も手を貸して、落下した商品のすべては集められています。

固そうな体の黒オジが、頑張られましたねと褒めて、ジャムは、褒められて嬉しいかと思ったのですが娘さんは、知らない振りで、父親の腕時計を見ては脇をこずいたりしています。ちこくだめ。ちこくだめ。早く行きたいみんな待ってる。ワタシみんなのオサイフなんだから。オバサンは娘さんを、何言ってるのよと見下ろして、

「もう、出るわよ」

「よろしゅうございますか」

「出たいのだから、出るのがよろしゅう、に決まってるじゃないの」

「さらに一度お尋ねします、ご退ヒはなさいませんか、今すぐにでなくとも、今年いっぱい、何かのキリの折りに、ご発表なさいませんか」

「なさいませんよそんなの。どーして、ご退ヒするのよ、私が。夫はしても私はしないわよ」

「殿下がご決断なされば、ひでぇんかも同時に、当然」

「決断なんかしないわよ、あれは。決断したことなんか無いの。結婚だって、いろいろ、教えてもらってそうなったのよ。でなきゃ、この私とできたはずはないわ」

「国民の、少なくともかなりの数の者たちは、その「いろいろ」を憂いておりますがね」

「バカじゃないの」

「・・・差し上げたご提案には、もう一つございましたね。・・・もう、コーラはお飲み干しになられましたか」」

「あなたと一緒にここでこのまま、とか、馬鹿なことを言ったわね、それだけは御免よ。はい、空き缶。ここでどうにかされなきゃならない理由が無いわ。しかも、あんたなんかと一緒に」

「ご一家揃って、の選択肢もございます。私はその覚悟も定めておりました。」

「それなら尚更御免だわ」

ひでぇんかが、空き缶を黒オジの手に投げてバッグを開け、口紅を、ぐいいっと引き直します。娘さんに、行くわよ、と声をかけます。娘はうつむいて、カチンコチンに固まります。この二人は、親子ではないのでしょうか。

「のっぽん国へのお思いを、一つだけお聞かせ願えれば」

「のっぽん国?」

「いずれあなた様が」

「関係ないわ」

「。。。」

「な~んにも関係ない、私は知らない。夫が何とかするのでしょう、他に考えたがってる人間が大勢いるわ、私は関係ない、何も知らない、しない、したいことしかしませんよ。

初めからの約束よ。

「出ます。そこ退きなさい。あなたたちがしたことは、父にすべて報告します、私たちを監禁したり脅かしたりバイコを虐待したり、ぜんぶ、言ってやるわ。覚えてなさい。私は」

「しかいし、なさいますか」

黒服が笑い、ひでぇんかはまた、3秒くらい、角が生えました。ねえお父さん。こうたいしろを振り向きました。

「この人、一緒にとか覚悟とか言ってるけど、どういう意味かわかる? こんなとこに一緒にいるの、イヤよね?」

「そうですね、イヤです、はい」


準備完了です。どこかから声がしました。

お選びなさいませ、と、ひでんぇかの前に、黒オジが指さして、二通りの道を示しました。

最後にもう一度、選択の余地を差し上げましょう。黒オジが言いました。

「わたしは、こわい人に見えるでしょうが、本当はいい人なのですよ」

わは、と、こうたいしろが笑いました。面白いギャグですねえ。ひでぇんかはこうたいしろの背中をつねりました。

・このそれぞれの先に、同志が、10人くらいずつ待機しています。

・デパートの外の交通規制は、すでにとっくに解除されています。本来されなければならない規制ではございませんでした。無駄でしたねこれ。

・地下以外の店内への客の入場は、すでにとっくに行われております。最低限の一般国民への迷惑は回避されたということですね。

・当初手配されていた警備陣は一部を除き解放となっております。

・地下への出入りは、本日緊急のメンテナンスにより、午後以降にしか、していただけません。と、なっておりました。

そんなことを、黒オジが告げて、一つはお馴染み、ご存じの裏出口。デパート貸し切りショッピングの折りの道です。ほぼ人に知られずここから出て、待機の車に乗り込んで、お住まいに御戻りになることができます。と説明します。ふむふむとこうたいしろは頷き、また、背中をつねられています。

いま一つの道には、会見場が設けられております。私が同道するか否かはお選びいただけます。私どもに賛同の意を表しつつも、ジャーナリストの王道、あくまで客観的な事実報道を心して行う旨の記者、カメラ、余の者たちが待機しております。そこで早速、監禁されていた、等のことを生々しくお述べにならるるもよろしいかと。いかなこともお話下さいませ。

「会見なんかしないわ。会見なんかしたくない。人前に出るのはイヤって言ってるでしょ。裏の道から帰ります。お父さん、そうするでしょ」

お父さん、と呼ばれたこうたいしろ殿下は、あ、ええ、そうですね、と妻を仰ぎ、

「裏からこのまま、と、致すことに致しましょうか」

なんだかエラそうな感じで言いました。

「では、本日の模様を、うっかり映し続けてしまいましたデパートの防犯カメラを、解析したり公開したりすることを、ご了承いただけますね」

「は?」

黒オジが、にっこりと笑いました。

「私と、私の本日決行に同意、協力、実行の途に就いたここにおります者どもは、己のすべてを賭す心を以て在しております。手荒いことは控えましたと申せ、のっぽん国のこうたいしろどうひりょうでんか、及び、ばいしんのうでんかを、一定時間、囲い込んだは事実。これはおそらく罪。犯したはれっきとした犯罪行為。でありますれば、その一部始終を撮影しておりました、デパート常備の隠しカメラの内容も、犯罪の重要なる証拠となるは当然の理」

「言葉が難しくてわからないわ、イライラする。喫煙所へ先に行きたいわ、お父さん」

「え? あ。う~ん、まあ、はい。あのう、妻を喫煙所へ・・・」

「あ、そうでございますか、本日は、報告によりますと、有志の者の手によって、そのあたりまでも、カメラが備えてございまして動いておりますが、およろしければ」

「失礼な」

ひでぇんかは切れています。こうたいしろは、背中の一部をどうかされたのか、目の焦点が一気にぼやけて、ぼおおとしています。

あの、あの。

こうたいしろが口を開いて問いかけました。

一つだけ、お尋ねをせねば。一生懸命な顔をしています。

「あ、その、このお仕事は、大変ですか?」

聞かれて黒服オジサンは、真面目に笑いました。答えました。

「いいえ殿下。恐縮にございます。仰るほどには大変ではございませんよ。と、お答え申し上げましょう」

と。その時。

そうです。

そうです、娘さんが、ジャムに、手を、伸ばして、お土産、ランチ、ちこくだめ、これ取る、よいしょ、瓶すべる、あっ。



残すところ、四月は、残すところ、あと二日。

実はロマンを愛好する、黒オジ氏。

  
 イメージ短歌
       「ワタクシの専属医師団の言うごとく したいことだけさせておいてよ」

    今はその「独り医師団」とも遠くなってるのよね。と、突っ込みたかった何茶手くおん の あてこすりの一首



「捕まるわよ、あなた」

雑子は言ってやったのだ。人差し指をまっすぐに、鬱陶しい感じの悪い男に向かって突き出して。あの頃のように。名刺を出せとは、独身だったあの時のようには言わなかったけれど。

「エラそうに説教して通ると思ってるの、わたしを誰だと、何だと思ってるの、はぁあ」
思いっきり顔をしかめてやる。

・・・「捕まるのが恐ろしくて、ひでぇんか、あなた様のごとき訳知らずのお方に話をしようとは、もとより考えておりません」。
黒服のオジサンは、少し笑いながら、おばさんを見つめました。こうたいしろより年上のようですが、声は低くて、多分イケメンではない・・と見えるけど、かっこいいオジサンです。

おばさんは、フンと鼻を天井に突き上げて、ペンギンみたいに立っているこうたいしろに、バカみたい、と憎らしそうに言って、手に持ったままだった大きなチーズの塊を、ドスンと、入っていた木箱に投げ落としました。

あ。チーズの悲しそうな声が聞こえた・・・ジャムの耳には確かに届いた悲鳴でした。

「閣下、時間が足りなくなります」

もっと低い声がし、黒服おじさんは、ん、と短く応えました。おばさんにまっすぐ向きました。さいこーに短く申し上げましょう。笑いました。

「太陽は、あなた様の上にだけ現れて、あなた様のみを照らすものにてはございません」

おばさんは、もう一度ふん、と鼻の先っぽを上に突き上げています。

「誰の上にも陽は照っているのでございます」

「早くここから出して。私だけでもいいわ、とりあえず。それか、電話かしなさい」

「報道の人間も政を行う者も、このデパートの株を所有する者も。社員も派遣の社員も、顧客も司法の関係者にも。あなた様の惨状を見難く感じる者がおります。国のため、憂うる者もおります。日ごろは微細な力であって、のっぽんはこれからどうなって行くかと、心痛めつつも、如何にするもままならぬと、強き諦念に身を委ねております者が、日を追うごとに、ひでぇんか」

「うるさいわアタマ痛いわ」

「増えまさっております、実際におります。そして、この美しいのっぽん国の今後のために、微力ながら叶うならばなんらかの力を、と、望む者が、数多くいるのでございます」

「何言ってるか解らないわ。むずかしいこと嫌い、うるさいの大嫌い、のど渇いた、お腹も空いて来た、脚が棒になって来たわ、私をこんな目に遭わせて、どうなるか覚えていなさい」

「国民は苦しんでおります、ひでぇんかの慎みの無い態度、なすべきをなさず勝手気ままなご行動怠惰に過ぐるおんありさま、血税を貪るにお身内までも交えての傍若無人、お子さまを甘やかし遊ばすのみにて、公人にふさわしい」

「バイコのことは誰にもとやかく言わせません」

ひでぇんかが怒鳴りました。バイコさんはぴくっと震えて、体中が固くなったみたいに、ぱぱから離れようとして斜めになったまま動かなくなっています。

「バイコのことは何も言わせません、言うな、ワタクシに聞かせるな」

「ではお嬢さまのことは」

「他のことも、何も、言わないで」

「しかし本日は聞いていただくために」

「聞かないっ 何も言われたくないっ、ちょっとマル、何とかしなさいよ、この男、何とかして。アタマおかしくなりそうだわ、クスリも持ってきていないのに、どうしてくれるのよ」

こうたいしろの名は「マル」なのですね、ジャムはすでに学習しています、わかりました、マルさんは体を前後に揺らしながら

「はははははい、何とか、ですね、心得ました、何とかしましょう、しかし、が、どうすれば何とかなりますかね、ええと」

困りながらこうたいしろは、ブワンっと飛んで来たひでぇんかのバッグから、ひゅいと身を屈めて直撃を避けました。

すごい技だ。慣れてるな。ひそひそ声がジャムの耳に伝わって来ます。実にすごい反射技でした。

「早くここを出しなさい、言うことはそれだけ、お腹が空くとワタクシはね、何も考えられなくなるの、子どもの頃・・・若い頃・・・」

ひでぇんかは、何かを思い出したようです。

「・・・時間に食べさせてさえくれれば、お母さまが人に言い触らすくらい、いつもたっぷりの手料理を作って時間に間に会うように並べてくれれば、トモダチできなくても平気だった、オトコのことばっかり考えるようなことも無かったのよアタクシ・・」

「個人的な不幸の追憶でございますね」

とても落ち着いたとても静かな声で、おじさんが言いました。

「あなた様のご身分に、そこまでの拘りはふさわしくないのでは」

「うるさい」

ひでぇんかは叫んで、左右の手の人差し指を、がばっと、ご自分の耳にお突っ込みになられたのでした。ぎゅぎゅっと力を込めて。

「うるさい黙れわたしを責めるなうるさい黙れわたしを責めるなうるさい黙れわたしを責めるな」

目を据えてぶつぶつと始めました。

「やはり、ひでぇんか、お考えいただきませんか」

「・・・考えると、頭の中をぶんぶんハチが飛ぶの」

「そのまま、静かにご自身と向き合われることなさらず、お考えなさらずでこの先も参られますか」

「私にどうしろって言うのよ、わからないことばっかり言って、お可哀想なザツコさまって、あなたは思わないのね、トカゲ男ね」

「卑しくもひでぇんか、のっぽん国のひでぇんかならば、おん自らのお考えをいただきたく存じます」

誰にも一つずつ備わっているおつむは、お帽子の台にてはございませんのですよ。黒オジさんが言うと、いきなりバイコさんが

「おぼうし。お皿。おぼうし、お皿、ばばあ」

少し笑いながら声を出しました。八重歯というらしい名の歯が、両方の口の端っこに見えました。

こうたいしろが、嬉しそうにそばに寄って、バイコさんのあたまを撫でました。

お皿。バイコさんがぱぱを見上げ、ぱぱさんは、バイコさんに合わせるように、おぼうし、おさら、おばあさま、と繰り返すのでした。

「ちがう、ぱぱ」

「何がちがうのかな?」

「おぼうしお皿ばばあ」

「ん? お帽子お皿ばあば?」

「ばあばちがうぱぱ」

「ばあばじゃないの? バイコちゃん」

「ばあばちがう、ばばあ」

言いながらバイコさんは、さっと、お父さま・・マル? の頭の上を、ざっと右手で払って。・・・・・・・・・・・・・この瞬間の状況と、マルさまの動揺した様子は、なぜか省略。


{はあああああ?}

黒オジに、何やら耳打ちされていたひでぇんかが、ふぎゃあああ、と叫んでそして、


「じゃあ父をどうやって、救ってやるの」と。もの凄まじい剣幕でお震えになられたのでした。

父を、父が、父に、父の、と、あわあわ、父が大変、父だって被害者、と。ジャムにはさっぱりわかりません。

ひでぇんかは、その父というものが、いちばん好きなのでしょうか。

「がんじがらめなのよ、父だって」

「ご実家のお父上に関しては、あくまでひでぇんかのお案じなさるべきことにはございません」

「気になるじゃん、父だもの、親孝行が人間の基本と、ワタクシ、かつて灯台にておそわりましてよ」

「苦笑」

黒オジさんの顔に、本当に、「苦笑」の文字が浮かんだのです。ジャムにもなんだか、それは、理解できた・・

ぴっと黒オジの顔が引き締まって、

「お立場よりお考えいただきますれば、カワッタ氏は市井の一人物にすぎません、ひでぇんか、そうであるべきなのでございますよ」

「冷たい切り捨て方ね」

「常識の範囲のこと」

「わたしのために必死で来たのよ、わたしの父は」

「お国のために、ひでぇんかはあるべきお方、それは通りません」

「父どう思うのそっちは」

「最低。と、申し上げましょう」

「最低はあんた

「虚虚の栄華はお身の続く限りのこと、一夕の夢、砂上の楼閣、諸行無常にして、桜散らしの春の風、失礼、わたくし実はロマンを愛好する身にて」

「ロマンがあいこくなの、へえ、ちっともわからない、どーゆー意味よ、さっぱりわかんない、お腹すいたのど乾いた、カップめんでも運ばせなさいよ、子分いるんでしょ」

「同志はおりますが子分はおりません」

「おんなじじゃん」

「お立場を退かれて、なんぼでもお好きになされませ」

「今の方が楽だもん退かない」

長引きそうだな。誰かの囁きが響き、黒オジさんはそちらの方にびりっと目を向けました。

すごい目だ、と、ジャムは、きっと、これがビビると言う・・が、ひでぇんかは平気。

間を置いて、やがて

「俗に申すに、まともに生きる天が下、なれば、お天道様とごはんは、付いて回ると」

「説教は嫌いなのよ私。本当は、いろんなこと何も解らないの、何聞いてもわからない、ただ、考えさせないで欲しいのよ」

・・・困りましたねえ。

黒オジは、本当に困っているみたいに、う~んとうなってぐるぐる首を回しました。

ひでぇんかは、脚が疲れたのか、片方ずつぶんぶん振り回し始めました。靴が一つ、飛んで、外国製のクッキーの、積み重なった袋たちの上に着地しました。

ひでぇんかは、けんけんして取りに行って、すぐに片足床についてしまい、靴を取って、床を歩いたままの足に、ひでぇんか様は、すぱん、と履いたのでした。

こうたいしろは、すこし立ち尽くしていましたが、何か気づいたように、周囲を取り囲んでいるSP??誰? 何? たちに、笑顔を振りまき始めています。

「わたしは平和を愛しております、誰と争ったことも無いです、負けるとイヤなものですね、帽子を取られたり、ええ、平和がいいです酒も飲めますからね、コツレンの総裁にもなっておりますしね、殴られるくらいなら、土下座ってもんをしてみても、ちっともかまわないではないかと常々考えておりますよ、ええ」

父の御代は、せんそうの無い時代でした。称揚すべきことだと、母が申しておりました。いつでも何でも母は、うまいこと申します、父の脳内、イコール、母の脳。これもまこと立派な。へらへらと嬉しそうにしゃべっているこうたいしろの、前髪の形が、なんだかとても不思議な感じになっていて。

ねえ。ちこくだめ。ぱぱ。気になるのか娘は、突っ立ったまま一層つよく、目が据わって来ているようです。

あと、10分無いぞ。

背後で声がします。


本日は冗長に過ぎた感が致します。

四月いっぱいで、なんとか着地できるのでしょうか。まあ、なんとか。次回は、雑子さんの身の回りに世話をしている、あのラテンな男性に、明るく放言してもらうことといたしましょうか。

・・・妃殿下の服薬量は、限度を超えているのではないかと思われます。笑っておられますが、お顔は大層に浮腫んでおられます。

ええ、これは、日本の国の、皇太子の妃を見ての感想です。

明日もブログを書く時間は、無いのでは、と思われます。少し残念ですが。


雑子・感傷とイラダチのハザマで



イメージ短歌

    ここはどこワタシはだあれウフフのフ私は天下の雑子ヒだわよ

                 ひでぇんかの御尊顔に興を得て  何茶手くおん の詠める

・・・・・・・

       のっぽん国営放送・午後2時のニュース   ピンポンパンパコ~ン 

「天下国家にも国民の幸せにもうっすらとも無関係のニュースを申し上げます。

こーたいしろひザツコさまは本日午前、恒例の、ないしんのうバイコさまの社会見学、庶民生活たんほう、デパ地下ご視察のお付添いの途次に体調の波にお見舞われになられました。国民及び開店を予定以上に遅れさせられていたデパート客への影響を懸念され、密かに現場をご退出、現在は療養状態に入っておられます。

食欲その他血圧等にはお変わりなく、愚内庁も、国民の皆様に置かれましては、過大なご心配またお悲しみに心閉ざされること無く、納税に懸念の及ばぬよう、日々の労働の継続にお励みなさいますよう、声明を発表しています。」

3時にも同じニュースが流され、夕方もう一度流されて、今回のザツコひでぇんかの「突発性爆笑性継続性過呼吸症候群」に関する話題は沙汰やみになった。

何日が経過したのだろう。


ザツコはいま、見たことも無い建物の、2階とおぼしい広い洋風の部屋にいる。

2階であるとわかるのは、遮光を意図してか鎧戸のほぼ閉ざされた大きな窓の、細い隙間から見える景色が、それらしいからだ。

背の高い、きらきらと陽光に照らされて葉裏の光る葉っぱの生い茂った樹が、立っている。2本か、見える限りでは3本、立っている。

その向こうは空だ。春の生まれ初めの、淡い水色の空だ。

景色にも空の色にも興味は無い。世界が美しいなんて感じを抱いたことは無い。けれど、こういう空の色を、じっと眺めていた記憶がある。

あれは、どこの、そしていつのことだったのだろう。育って来る間、数年ごとに住処が変わった。父親は転任の多い人だった。母も必ず付いて、姉妹を連れて、幾つもの国を巡った。祖父母はのっぽん国にいたが、子どもたちが学齢を迎えてもザツコの両親は、娘の教育のために親に子を託して、落ち着いた学校生活を与えようとはしなかった。

皆まとまって移動した、一緒だからと言って、家庭内でもまとまって一緒だったというのでもない。

家事手伝いをする人間が、いる時もいない時もあった。食も衣も、その時々、適当なやり方で始末がつけられて行った。

適当に食べ、適当なものを着せられていた。母はまれに、薄物のワンピースなどを手作りすることもあったが、後に見る、写真の中に残されているそれらは、どれもこれも見事に丈の短い・・・胸のすぐ下のあたりにウエストの切り替えのあるような・・・幼い女の子の白いぱんつが、まるごと見えてしまうような、そんなものばかり。母はズボンの前後ろを逆にはいているなど、誰かに思い切った疑念を向けられても気にしない、そのままで何の痛痒も感じない、おおらかな(自己判断に拠る言葉)人間である。

なぜ、娘たちのワンピースの丈がいつもどれも短かったのか。何年も同じパターンを使っていたから。以上の他に理由は無し。

母国から持って行っていたワフク。写真を撮るとてそれを雑子に着せる際に、それ用の下着も・・肌襦袢も・・長襦袢も無しで。いきなり襟元ぎゅうぎゅうに着せつけて、撮った写真を、婚約の前後にマスゴミに披露して。雑子はずいぶん、ヒソヒソ口を叩かれたらしい。母は平気だった。一枚の浴衣を何年も着せて、最後の年には腕も脚ももろ出しになった写真もあった。母は平気だった。雑子は…平気だったか恥ずかしかったか、もう、忘れた。人は、妬んで羨んで口いっぱいなことを言うものだと。そんな感慨を、知らず身に着けたのかも知れない。

ええと。感慨って何だった?。

・・・そんな、日々の中の、いつか、どこかで、今日の、こんな水色の空を、眺めていたことが、あったのだったか。

雑子にだって、空を眺める少女時代はあったのだ。

金色の髪、水色の虹彩を持つおとこのこ、ミーシャの、目、のような、空だと。感じたことが、あったような、ううむ。男の子は好きだった。でも誰だってそうでしょ、と、思っていた。ピロシキも好きだった。

ドアがノックされる。こんこん、ではない。こんこんここん。。おかしなリズムで、それが毎度、几帳面にノックされる。誰だか何の用だか、応えてやる気になれない。

「ひでぇんかさま、めがさめたか、そうか」

大きな盆を捧げた、なんと言うか、イタリアンの店の調理人のような身なりの男が、鼻の下の髭を横向きににま~っと引き延ばしながら入って来た。笑顔なのだ、それは。

「ひでぇんかさま、お茶をのむよな」

笑い方もモノの言い方にもイライラするが、何か飲みたいから黙っている。手を出すと、冷たく冷やされて汗をかいているグラスを手渡された。

「麦茶だ、ひでんかさま。暑いときにはのっぽん人、これを飲むんだな」

麦茶だって。暑い時は、だって。今はこの国は、まだ、冬だ。春になっているそうなのだが、事実は冬だ。

「お腹空いてるよな~、ひでんかさま」

「・・・」

「いま、お米をにスイハンしているんだからな~。もうすぐ、ご飯は炊かれるだろう」

「あそう」

おとなしく応じてベッドに横たわって男に背を向けたのは、どうやら、この男にしか、現在の自分は会うことができないらしいと、うすうす、わかっている気がするから。

ただただ白いベッドに、シャワールーム。サニタリー部分は別にあって、何も置かれていなくて広い大きな、楕円形の卓。

あるものはそれだけ。携帯電話もパソコンも無い。のっぽんの雑誌が何冊か、これはおそらく、最新号ばかりだろう。自分はそして、置かれてあった新品だったジャージを着て・・色はベビーピンク、気恥ずかしいくらい柔らかい、綺麗な色のジャージ。そういえば娘にも・・・娘のバイコにも、こんな優しい色のベビードレスを選んで、着せてやったことがある。

初めて母親になったころ。ザツコは幸せだった。精いっぱい幸せだったと思う。

あの子は柔らかい子だった。体のどこもが柔らかくて、抱きにくい子だった。脚の関節に何やらモンダイがあって・・・それは雑子にはショックなことだった。どうして自分の子が。と。穏やかな声でそれを告げた医者に、腹が立った。何を言うのだろう、この私に、と。柔らかい上に足を開いていなければならない赤ん坊の、抱き方のレクチュアを受けた。熱心に話を聞いて、養育係の一人が、バイコを抱くベテランになった。

抱きにくい体を、器用にくにゃっと抱いて、目を合わせて笑い合って、バイコの喃語に合わせて、あーだのぶー、だの。いつまでも、楽しそうに、睦んでいた養育係。ザツコの娘を可愛がり、ザツコの娘を愛し、ザツコの娘に愛されなつかれ、後を追って泣かれ、胸の中で、安心して眠らせていた、養育係。

あの頃。バイコが赤ん坊だった頃。膨大な量の写真を撮られた。夫のマルは、なかなか上手にバイコを抱いた。脚の具合がどうだとか、気にしていないようだった。可愛い可愛いと、マルは、バイコに向き合っていた。アナタハイイワヨ。雑子の胸は波立っていたのに。

生まれつきのその立場。揺らぎようの無い立場。なかなか結婚できないでいたその男は、?????いくつかの疑問を、もしかして抱えながら、しかし多分「一生お守りしますよ~」なんてことも、もしかして自分が口走ったのかも知れないと呑み込んで。

雑子にドウキンを拒まれ、昼夜逆転の生活を、内心はどうあれ受け止めて対外的にはにこやかな顔を保ち、雑子に荒い言葉も吐かず、自分はツマに殴られ蹴られても、ツマに対してそういったことの行わない夫であった。

のどを、つる~んと、何の抵抗も無く滑り落ちて行くゼリーみたいな男なのだ。

コカンセツに問題があると医者に指摘されても、あ、そうですか、と、にこやかに受け入れ。不安で何やかにや言い募る雑子に、用があるからいったん失礼します、アトヨロ、と、真剣にとり合ってはくれなかった。

後で見たどんな写真も。すさまじい量のバイコの写真、マルに抱かれている写真、雑子に抱かれている写真。その、おおかたで、バイコは、目の前の親を、見上げてはいない。見てはいない。常に、と言っていい、バイコは、父親でも母親でもない、そばについて来ていて、カメラの届かないところで、バイコに手を振ったり笑いかけたりしている養育係の姿を、追って、見つめていた。

バイコは雑子を見ていなかった。いつだって。いつだって。マルにはわからない、周囲に自分のために存在している人間のいるのが当たり前の環境で育っているマルには、わからない。

マルだってつまりは、あの母親の「慈しみに満ちたお母さま」の表情を、引き立てる役で撮られ続けていた人間なのだし。


・・・最後の日、バイコは、懸命に両手を伸ばして養育係を求めて泣いた。あの女も、バイコの泣き声に身を裂かれるように顔を歪めていた、涙をこぼした、ザツコは、愁嘆場はまっぴらだと思った。イライラした。

さようならと、今日かぎりで職を解かれる養育係の、その部屋からの退出を促した。

あの養育係は、後日、要らないことに、どこかからの質問に答えて、「胸がつぶれそうでございました」などと言っていた。そんなことの書かれた週刊誌の紙面を、雑子は、思い切り破り捨てたかった。後で、そうした。

バイコは、ベビーピンクなどという、淡い優しい色合いの似合わない赤ん坊だった。

ザツコの胸が、一瞬、チクリとする。痛む。

バイコのあの、悲痛な、本能で悟ったか慣れ親しんで愛おしんでくれた人間との別れを悲しがっていつまでも続いた、泣き声。ザツコに向けられたものでなかった、あの声。

自分では無かった、バイコが求めたものは。せっかく生んでやったのに。

生まれてすぐに、実家の両親がひらいた記者会見の事実だって、雑子は知っている。

「お通夜会見」と書かれていたのだ、あのことは。父も母も、男の子でなかった出産を、喜びも祝いもしなかったのだ。おまけにあの日、母は、雑子がそのへんに投げておいたブローチを、襟もとにつけて。目立っていた。ワルクチを書かれた。いや、自分が母に、あげたのだったかいや、・・忘れていたブローチなのに。

母はよく、住まいに来ては、調度品や壁に飾られた絵画や、いろんなものを、フムフムと眺めていた。雑子の子が、男の子だったら、自分も大きな顔してその調度品や絵画のある世界へ入り込めると考えていたのだろう。

雑子もそれには違和感が無かった。

広いのだし。雑子はここへ、乞われて来てやった人間なのだし。

母方の祖父が、雑子たちの住まいへ来て。庭を車椅子で散歩して。喜んでいたことだって。マスゴミに叩かれた。いるべき場所ではないと言われた。何もかも、五月蠅くて神経の荒れることばかり、言われた。

夫が。こうたいしろであって、実際「おえらかった」丸臣が、いいですよ、どーぞどーぞと認めているのだから。」足を悪くしていた晩年の祖父のために(とは公には言われていなかったが)、事実、住まいをバリアフリーにした。マルの反対はあれば可能なことではなかった。つまり、マル自身は受け入れていたのに。いけないわけが無いのに。何をしてもワヤワヤと言われて。

夫の父は、バイコが生まれて後に、

「うちのツマは、丸臣の血筋に、後を継がせたいと考えているようです」

とか口外したそうで。それだけは、いいこと言ったと、雑子は認めてやっている。義父も義母も、少しはわかっているじゃん、と。

バイコ。あの子だってカワイソウだ。

その思いが、ザツコの胸を刺す。

・・・音の無い部屋だ。

床には足音が消えるほど厚い絨毯が敷き詰められている。濃い茶色。オークの色だ。壁も、どうやら、防音が可能なつくりになっている。音も、刺激も吸収する仕組みのようだ・・・よくわからないけれど。

ドアは施錠されている。いつも鍵がかかっている。何度も、右へ左へノブを回そうとしてみた、押そうと試みて全身で当たってみたが、どれだけ厚い材質なのか、ビクともしない。

ドアの向こうは廊下なのか。多分そうだ。廊下の側からしか開けられない、ドア。その内部に自分は、とらわれている。

今は出られない。それは、理解できている。

なぜ。それは解らない。解ろうとすると、考え始めると、頭の中心に楔を打ち込まれていて、それをぐっさぐっさと揺り動かされるみたいな、凶暴な痛みに支配される。

考えなければどうということも無い。食べて、眠って、時には外を・・・水色の空と、陽に煌めき風になびいてさやさやと鳴る、掌の形の葉っぱとを、眺める。

食事は運ばれて来る、味付けの薄い、野菜だの豆腐だの、ササミだの。

塊の肉、大量のチーズに塗れたパスタ、夫が毎夕封を開けて朝には空っぽの瓶になっている大吟醸の酒、そんなものは現れない。

まだ今は、それが無いと生きている感じがしないと狂おしくなるような感覚には襲われない。

まだ今は。

・・・いったい、どれだけの時が流れたのだろうか。

もうぼんやりとして、前世というものがあるなら、もしや前世のことだったかと思われる、遥かに遠いあの日のできごと。

はっきりとは思い出せない・ただ、バイコが、ジャムの瓶をデパートの床に落として。

      唐突ですが、明日に続きます。





お引きたまわれ(=出て行けよ)

     ジャムは見ていた

  イメージ短歌   「もしかして今までに見たさいきょーの無茶言うおばちゃん? ざつこさまって」

                         ピュアなる「じゃむ」、思うたままに詠んでみつる



入って来たのは3人です。

大きい女の人と、大きい女の子と、小さい男の人です。

のっぽん国のこーたいしろだ。ひでぇんかだ。むすめだ。周囲がざわざわしました。

フロアに入って3人は、あたりをぐるっと見回しました。

両手を揃えてじっと頭を下げたままの店員たちの姿は見えないように、ひでぇんかとむすめは歩き回って、娘はいきなりナッツの大きな缶に手を伸ばし、つかめなくて落としてしまい、そのままうつむいて、落ちた缶をじいっと、見ています。

おばさんはダハハっと大きな声で笑うと、新しい缶を取ればいいのよ、バイコはそれが欲しかったの? なんで? 歯が弱いから食べられないじゃないの、とぽんぽん言いました。男の人が、食べたこと無いから食べたかったのかな、たはは、と、空気が抜けたみたいな顔で笑って、でも、むすめさんが落とした缶はそのままです。店員の一人が、どうしようかモジモジしているのを見て、おばさんは、

落としたものなんか荷物に入れないでよ、と、眉のところをぎゅううっとしかめて太い筋を作って憎らしそうに言いつけて、自分はチーズの塊を掴みあげました。両手でガバッと三つ掴んで、重さを確かめて、二つをどすんと戻しました。

これにするわ。おばさん・・ひでぇんかは、後ろにいる人に渡そうとして、腕だけ後ろへ回して、あれ、という感じでやっと、首も回しました。

「お付きの皆さま方はフロアの外に移動していただきました」

さっき棚の長老、じいさまが「SP」だ、とつぶやいた中の一人。黒い服を着て手足が長くて固そうな体の男の人が、サッと3人の前に立って、小さい男の人・・・ええと、こうたいしろ? を、見下ろして言いました。

「この地下は封鎖されました。誰も入ることは出来ません」

勝手に出ることも出来ません。静かに言いました。

え。え? と、こうたいしろは、笑うみたいな困ったみたいな顔になって、両手を、ポケットのあたりでパタパタさせました。誰かを振り向いたけれど、そこにいて欲しい誰かはいないようです。そ。それは。慌てながら笑っています。

「それは予定に無かったですね。呆宮職からは聞いておりませんよ。わたしの一家は、オホン、ここで、ザ、ザツコとバイコの欲しがるものを、買い物をして、ですね、それから、とうと御苑へ移動して、交通規制はかかっているはずですから時間通りにね、着きますから。雑音が聞こえて来るところでは買い物も何もできません、いや、ワタシではない、家内が、ですね。それで貸し切りにしてあるんですよ、急に何ですか。」

その男のひとは突然、目の中に氷が張り付いたみたいな顔になって、ペンギンみたいに反り返りました。誰も何も言わないので、また、へらへらしました。

「あちらのご家族にはご迷惑をおかけしない手筈です、バイコのお友達でいらっしゃいますのでね、不快な思いはさせられませんよ、私どもは。あ」

突然こうたいしろは、全身の動きをピタッと止めました。

どうも、大きいおばさんに、脚かどこか、蹴られたみたいです。でも笑った顔のままです。

もう一度、手を、両方、パタパタさせて、それが自分流の合図なのでしょうか、また話し始めました。

「あの。とうと御苑と申しますのは、両陛下であるワタシの両親も実は好みであらしゃります、ちうか料理の名店ですよ、この店も、お住まいから地下通路でつなげてあるのですよ、いっぱんの者どもには知らせてはおりませんけれどもね、こんなことは、訳知らずの者たちの、鵜の目鷹の目の雑音の元になるばかり、五月蠅いですからね、まったくもう。ものどもと、何もかも比べられては二千有余年の歴史が泣きます。違うのですからね、ワタシどもは、ええ、申すまでも無く。で、あの雑音を、私の母は、ひどく疎ましがるのですよ、ええ、。イヤケが指すと、。オクターブ上がってキーキーと説教は長くなるわ、裁ちばさみ投げられますわ、もー大変。周りが。オホン。ご存じですか、そこをね、はいツマのヒイキのとうと御苑ね、今日は全館貸切で、抑えてあるのです。ざ、ざつこの、私のツマのお身内の、方々も、同時にお集まりの予定でして、あ、そこへ、ええ、ここのシオッピングの後に参りまして、ね、娘の友人のご両親がたと、私の、この私のね、こうたいしろ殿下の、ご生誕祝いのランチをする予定なのです」

ふむふむとうなずいて、ええと、ドヤ顔?をする。バカみたい、とジャムは、思ってしまいました。いけないことなのに・・きっと。

「酒も、いいのを言いつけてあるのですからね。ふふん。これくらいが、義務ばっかりを押し付けられて自由の無いボクたちの、数少ない楽しみですよ、やれやれ」。

こうたいしろって言う名の人は、でへへと、口の横を手で拭きました。ポケットのあたりでその手を拭きました。

ああだから、手をぱたぱたさせて、服に付いたよだれを、乾かすのね。と。ジャムは納得しました。

その時、あ。娘の、バイコというらしい女の子が、じいいっと棚を見ていた視線を、こうたいしろにゆっくりと向けました。

こうたいしろは、自分のずっと上の方にあるSPの顔を、見上げながら話していたのが、反応が無いのでおかしいなあ、と感じていたのか、やや不機嫌に、でもやっぱり「何なんだよお、このボクがしゃべってあげたのにぃ」。笑っていながらブツブツつぶやいて、娘の方を見て、

「ちこくだめぱぱ」

バイコさんが言うのに、首をコクコクして、にまにま頷いて、

「そうね、そうね、バイちゃん、パパは遅刻はしないのよ、エライでしょう。とにかく、遅刻だけはしないで来たの、だからエラいんだよ、パパは」

いっしゅん、鼻の穴がびっくりするくらいかぱっと開いて、ものすっごくエラソウな顔になったのでびっくりしました、でも、すぐに、バイコさんに

「ジャムが欲しかったのでしょう。あそこにあるから、欲しいモノ幾つでも取っておいで」

言うからジャムは、震え上がりました。ジャムって。

あの、あそこにいる女の子が、私を買うの? 。

「どれだけでもお選びなさい、バイコが何か欲しがるなんてめったに無いものね、、いいね」

にっこにこのこうたいしろに、バイコさんは、

「ちこくだめ」

にらみつけるみたいにじっと、どこかを見ているだけです。動きません。でも、傍にいるおばさん・・・ひでぇんかが

「まぁたぁジャムなの。ちっとしか入ってないじゃないの、あのジャム。瓶が重いばかりで、中身は指で二回くらいすくったら、もう、無くなるのよ、何かどっか、不正なジャムじゃないかと疑っちゃうわ」

みたん園のご主人や皆さんが聞いたらどんなに、とハラハラするジャムの気持ちなんか関係ないおばさんは、

「でも、ラクコたちは美味しいとか言ってたし、買おうかしらぁ、1、2ダースほど買ってアレのお礼に渡しとけばいいか・・・・・あら」

あらぁ?。

ゆっくりとジャムの方へ寄って来ようとした娘バイコさんが、優しい感じにではあっても、SPにしっかりストップをかけられるのを見ると、おばさんは急に、ものすごく恐ろしい顔になりました。何をするのっと、吼えました。固そうな体のSPが、今日はお話を聞いていただきます、と言いました。固い声でした。おばさんはこーたいしろに、

「何を言ってるの、このこれ、何のつもりなの、この私に。こんなモノを私は寄せ付けないわよ、こーゆーのをはねのけるのがSPじゃないの、なんでこれいるの、ここに、何するの、これ、いいかげんにさせなさいよ。何なのこれ、何? はあ?私を誰だと思ってる? ショッピングに来てこんな目に遭うのどうして? なんで邪魔されるの? 何とかしなさいよオトーサン。」

黙らせろ、放り出せ、と大声を出すおばさんは、もしかしたら、おじさんなのではなかろうか。

世間をまだ知らないジャムは、身動きできないまま、固まっているのです。ビンの中で固まっています 。

何とかしろ、早く。ぎぎっ。

こうたいしろは、奥さんらしいおばさん・・もしかしておじさん? に、ぎぎっと睨まれて、両手を猛スピードでパタパタパタ、うんうんうなずいてからSPを見上げて

「あの、あのうです、よく分からないのですが話は私が伺います、妻と娘を、まずはどこかへ座らせてやって下さい、妻は身分が高貴になりましてから体が弱くなりまして、いや、これは自己申告というものらしくて実はボクにもわからないんだけどね」

うんうん、ぱたぱた。

「ボク、わたし、何もわからない気がするんですけどね」

へらへらぱたぱた。

「とにかく私も父も、苦手なことがこういった」

ぱたぱたぱたぱた。

「怒鳴られたりねちこられたり・・父の場合は主にねちこい方でやられておられますが、私の方は、日替わり時変わりで体調の変化がありまして、そこをうまく理解ということをして、やさしく取り持たないと、ですね」

こうたいしろ、ぱたぱた止めて・・蹴りが入ってケリが・・一瞬、静止画面。

「怖いのです、非常に怖い、オソロシイ、いや誤解しないで下さい、私の責任にしないでいただきたいのですよ、そこよろしくね、あくまで、体調が怖いのですよ、ツマは病人なのです、ジコチューとかわがままだとか、親父化などではないのですよもちろん、それで、えと、配慮を要求します」

ぴしっと立ちなおして、両腕をずぼんの側面に添わせて、バリっと立ったこうたいしろ。

「配慮して下さいナガシメさん」

「本日の警護担当締め官はナガシメ氏ではございません、殿下」

「え? そう?」

「のっぽん国のこうたいしろ殿下を警備する者の顔をも、お覚えでないのですね、こうたいしろ」

ぎろっと見降ろされて、へ? と三歳児になるオトーサン。

「オトーサン!」

「はっ」

おばさんにどつかれて、こうたいしろは、いいい椅子を、お二人に、と要求します。

なんやあいつ、ヘタレやなあと、お好み焼きの粉、が、ふふんと笑います。後ろの方で見えないけど、言葉でジャムにも解りました。

「ここでは椅子をご用意できません」

SPの声に、なになのよ、と、きいっと、おばさん・・・ひでぇんかの声。

「僭越ながらひでぇんか、あなた様は直立にお慣れになられるがよろしいかと存じます。このまま現在のお立場でおられるおつもりなら、いささかの間を、直立して過ごされる鍛錬は必定」

SPの言うことは難しくなって来ていますが、ジャムには、そうだそうだと背後で重なる声が、その通りのように思えます。

「1時間の間も立ってお過ごしになれないなら、私がいま申しますごとく、そのお立場から去られるがよろしい」

「はああああああああああ?」

「いいとこ取りは人間としての恥。この世のすべては表裏で一体、ひでぇんかと尊称を奉られる御身にてあらせられれば、その名にふさうお振る舞いを」

「わたしはひでぇんかよ」

「はい、さようであります、あなた様はのっぽん国のこうたいしろ殿下のひでぇんか。アタマの中は空っぽであろうと酢が立っていようと、白蟻に食い荒らされていらっしゃいましょうとも」

「わるくち言ってる? ワタシに?」

尋ねるおばさんに、悪口ではございません。きっぱり応じる体の固そうな人。

立派です。ジャムは立派と思います。

「大切な場に限らず、かじゅあるな場面ですら、立っておられるさえが無理。入内なされてより幾星霜、その間なにも学ばれず修練お積みの様子うかがえず、盗宮殿下に対しては不遜千万の落第妃、ひたすら自らの欲望の使徒となり果ててお子さまのまっとうなるご養育を放棄放擲、国の一翼の支えとなるなど望むも詮無きクソ加減。儀式のイロハさえ為し難きあなた様のごときお方は、本来ならば最後の貴賓としてのおんありよう、自らお退きになるが自他ともに鑑みれば望ましいのは火を見るより明らか。ただそれのみを申し上げたいがため、かかるごとき場を設定いたしました。

御身方にのっぽん国の未来は託せません。断固、無理だと申し上げます。願うはただ一事のみ。お退きいただきたい」

フロアの中は、しーんと静まり返っています。気がついてみれば、大小3人の一家とSPたちの他に、そこには誰もいません。

「オトーサン!」

やがておばさんの大きな声が響きました。

「あんた。マル。だから今朝、電話の充電切れてたの、何とかしておくべきだったのよ、連絡も何も、取れないじゃないのこんな時に」

「え。だだだだって、今日はずっと一緒にいるから、大丈夫と、それに警護がついてるし・・・」

「その警護にやられてるんじゃないの、今は! バカっ すっとこどっこい、鼻かんで〇ねよ、おめえみたいな使えない〇びは!」

「え・ちょっと、ザザザザザツコ、人前でそこまで、そんな」

「人前でだって、あんたの〇〇さなんかバレてるわ」

ひでぇんかのひでぇのも、な。声は、ジャムの背後から聞こえて来ました。ククク。フロアの食品たちの、音にならない忍び笑いがあちこちから感じられます。笑っていいんだ。ジャムは安心しました。

でも、わはは、とは笑えません。ジャムだもの。

ああの、ザツコさん、携帯借りてあげましょうか? ん? こうたいしろの手はパタパタ。

「かけるところ、ありますのですか?」

「あなたにはかけるとこ無いでしょうけど、私には電話の相手はいっぱいいるのよ」

「えええ。でででも、今日は朝から親子で、玄関で写真は・・あ、撮らせてませんね今日は、ほら、ずっと一緒だから電話要らないかって、ワタシ難しくて充電などできないの、知ってるじゃないですかもう、はは、あなただって、ザツコだって、今日はチーズ買うって、それで、ジャイアント君のご家族と、とうと御苑でランチで、お茶までずれてゆっくりして、夜はお義父様たちと、御苑の隣のらんらん亭で、メンバーそのままで河岸変えて、水入らずでゆっくり、ああそうでしたビジネスの話もあるってことで、・・・例のあの件の火消しを依頼した方に、それ相応のお礼を・・・宝冠でいい? そうでしたよね、その予定だったから」

「言い訳はもういい、言い訳ばっかりあなたって。こんなところでこんな目に遭って、何の役にも立たない人なんか」

・・・おばさんが、こうたいしろを怒鳴りつけている傍で、

お別れになる手もございますね。静かに固い声の人が息を吐きました。

「でんかの方から、切れる話は出せますまい。赤子にもわかる道理でございます。一生かけてお守り、なんぞと、言わせてしまわれましたのですからね。言質をとられてしまわれた、あっさりと、公の席で、あほうみたいでしたね、あんなこと仰ったのですか?」

「え? わたし? 何を申し上げた?」

小さい男の人の、吊り上がった目が丸くなりました。

「一生かけて? 何のことでしょう、何か私、申し上げた。の、か、なあ?」

「いや、けっこうです、とにかく手も脚も出ないと言うのはあのごとき言質。世上の男ならば術もあった、が、ご身分お立場もございましたゆえ。しかし。

ひでぇんかが、人目はばかることも無くこうたいしろ殿下を罵倒なさる。由々しきことにてございます。それほどまでにご不満ならば、と、私どもは」

黙りなさい!。ひでぇんかは今度はSPを怒鳴りつけます。他に沢山いるSP・・・なのかしら?・・・は、ぐるうりと周囲を囲んでいるばかりで、何も言わず動かず。息もしていないように見えます。ただ、ここから出しませんバリヤーは、すごい。と、ジャムにもわかってしまうくらい。

「黙りなさいよ、あなた。名前教えなさい名札見せなさい。どこの警備会社? あいこくゆうじ? 変な名前。顔、お面かぶってるのそれ、人間の顔?。あ、顔のことはまあ、でも何の権利があってこんな。この私を」

「何の権利をも有しません。そう申せばそうであり、私にはどんなことも出来ないと言うことは無い、とも、申せましょう」

「はあ? 何言ってるの? 」

「ご利発なひでぇんかには解っていただけませんか」

「とにかく私はここを出ますよ。私が利発なんて当たり前のお世辞は不要です、もうずいぶん時間も経っています。デパートの開店時間過ぎているわ。客も文句を言い始めているでしょうし、まあそんなことはどうでもいい、国民たちは待って行列して何でもすればいいのよ。私がそう言うのだからそうなの、だって私たちは、盗宮夫妻なのよ、日本一の人たちなの、客などはいい、私たちはまもられるべき存在なの、ですからバイコにだって20人、人を付けてある。今だって50人ほどが、私と殿下を待機しているわ、あれら、何か不審なことがあれば動く、で、私たちが雇っているくっきょうの者たちが、踏み込んで来ることになってます。すぐに全員、逮捕されましてよ。こんなことして。新聞だって黙っておりません、週刊誌もテレビも、すべてどこも、私の・・・ワタシの父を敬愛して止まない。。。息がかかってるっていうの? それ、ちょっとイヤな気もしますけどっていうか、うち皆、臭い関係がどうも・・まあそのあたりはワタクシ、人品を自ずから下げる言動は慎みたいと思いますのですけれど、とにかく、黙っちゃいないわよ、解ってるの、解ってやってるわけぇ?」

ジロリと横目で、固そうな体のSPを眺めておばさんは、ふん、と鼻を鳴らしました。

娘は横で、ちこくだめ、と、繰り返しながら父親のスーツの裾を引っ張っています。ランチとやらには、よほど待たせたくない誰かが呼んであるようです。ジャムにはわからないせかいです。

娘の肩を抱くようにぽんぽん叩きながらこうたいしろは、おばさんを見、SPを見、ちろちろ目を泳がせながら、じっと、まっすぐ立ったままです。

・・・・・続く(多分)。

    テヘ物書き:註:。本内容のある部分は、幼いジャムであるジャムが、少し後に、
    実はかくなることであった、として知らされたことを、書き残したものです。
    本文中「ざつこ」なる女性の発言の大部分は、のっぽん国の人々に理解されやすい言語に翻訳されています。


全くカンケーないようですけど、雑子さまに酷似していると局地的に話題になっている、ある「高貴なお方」の話しぶりを、以下に引かせていただいたりしました。

問5  最近,公務を離れてご興味を持って取り組んでおられること,それから楽しみにしておられることがありましたら,教えてください。
 
皇〇〇〇殿下  楽しみにしていることはいろいろとございますが,以前にお話ししたこととも重複するかもしれませんが,一年に何回か自然の豊かな所を訪れる機会に恵まれました折には,そこで美しい景色を眺め,そして,きれいな空気を吸って,そしてまた,山歩きなどをしながら植物などについていろいろと教えていただくこと,それからまた,そういう空気のきれいな所では,夜には天体観測をしたりすることも大きな楽しみになっております。それから,日々の生活では,先ほどもお話しに出しましたが,犬たちとの散歩ですとか,いろいろな触れ合いを通じてたくさんの楽しみや喜びを見いだしております。

 それと,今年の夏に,クワガタ,昆虫のクワガタですけれども,クワガタがここの御所の窓の外の所で弱っているのを見付けました。私自身,ここにクワガタがいるということ自体驚きだったんでございますけれども,皇太子殿下がお小さいころには,クワガタや,カブトムシもここにたくさんいたとかということで,殿下も大変久しぶりにご覧になられたということでしたけれども,そのクワガタが弱っておりましたので,保護いたしまして飼育いたしました。そして,その後,雌を加えて一緒に飼育してみましたところ,繁殖いたしまして,卵を産んで,今は幼虫を飼育しております。幼虫の飼育というのは取り掛かってみて分かったのですけれども,クワガタの場合,成虫になるまでは3年ぐらい掛かるということで,割と長い3年掛かりの仕事になるかしらと思っております。子供のころに親しんだ昆虫に,また触れることができて,そのことによって,いろいろな,例えば虫ですとか,そういった小さな命一つ一つが大変いとおしく思えてくるものでございまして,そのようなことから,現代の子供たちにもそういう体験をすることというのはとても大切なことなんではないかしらと感じております。

プロフィール

今も夢見る

Author:今も夢見る
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願ってはいましたが叶うとは思っていなかった、海を眺めながらの暮らし。

朝はじめてのコーヒーは、バルコニーで。

ルージュは、シャネルの赤。ずうっとそう。きっとこれからも。

・・・ちょっと、かっこよすぎる。

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