おとぎ話
2019年03月02日 公開
おとぎ話
さよならという日本語が、世界でいちばん美しい別れのことばだなんて誰かが言ったから、みな、息を呑んでしまったのだ。
すっくと立ちあがって別の誰かは歌い始めた。サヨナラダケガ人生ダ、サヨナラダケガ人生カ、サヨナラダケガ人生ナラバと、道化の踊りは果てもなく、もっとやれ、もっとやれとはやしながら、誰も、互いの目を、見ようとはしなかったよね。
いきなり身を伏せて、どうぞ笑って下さいますな、どうぞ笑って下さいませとぺこぺこ卑屈な誰かの頭は,ぱしんと明快に弾かれた、笑い声を沈めて、ふと、見上げた空には、魔法使いのぶらんこみたいな・・・チンプな表現だったよね、あるいはチープな、やたら赤い三日月がぶら下がっていた。いや。酒など呑んではいなかった、酒で酔っぱらえる夜ばかりではないものね。
ジンという酒は透明で。ジンという名の酒を、てのひらに包んでいたいばかりに、座り込んでいた誰かがいたね。
その店の硝子戸はいつも曇りがなく。鳥がぶつかって気絶しないように、もう少し汚しておいてやったらと提案した誰かもいた。店主は黙って首を傾げて笑うばかりだった。七つ年下のようこちゃんと、店主は、町の教会で結婚したばかりだったんだ。
グラス越しにその窓から見る夕焼けの色を、とても大切に思う誰かを、とっても大切に見つめる誰かのいることを、店主は、ようこちゃんに、話してあげたのかもしれない。きっと、そうだった。
空間は、指のいっぽんより小さな鍵に守られていた。その空間の中にすべりこむのに必要な、一枚の札、もしくはいくつかの硬貨。それだけは絶やしたくなかったのだね、みんな。ざんざか、ざんざか、降りたい放題の雨は、その空間をもっとしっかり庇ってくれていた、その安心感に、あははと笑いだしたいくらいだった、なぜ笑うかって。さて人はどんな時に笑うのでしょう。宿題ですか。宿題です。宿題出してくれるなら、また、会えるんだ。そんな類いのコトバのゲームが、無数に、あったよね。
夜更けに私の部屋のドアを叩いたあの子の胸に、土産のつもりの肉まん三つ、ほかほか湯気を立てていた。熱い番茶をありがとうと受けた声が、素直すぎて、そう、寂しかったよ。お母さんが病気なの。つぶやいて、ふふふと笑った。優しいこと言いたいのよ。まつ毛がまたたいた。かわいそうで、かわいそうで、だから言えないのね、優しいこと一度言ってしまったらと思うとね。怖いのよわたし。
少し途切れて、ひどいわね私、あの子はまた笑った。そうねひどいね。私は答えた。
うんと残酷で意地悪で自分勝手になれたらいいな。
なりなよ。私は言った。なりたいな。あの子は言って、ふるふるっと震えて、きれいな歯型をつけて肉まんをかじった。
なりなさいよ、自分勝手に、私みたいに。私も肉まん、かぶった。見習おうかな、あはは。あの子はぱくぱく食べ終えて、お茶を二杯お替りして、帰って行った。
さよならとは言わなかった。いつだって、じゃ、とか。またね、とか。また、なんて言葉を、信じていたのだね、あの誰か、あの誰か。あの後、お父ちゃんやお母ちゃんの顔になって。今、ときどきは、こじゃれた名前の孫たちの髪の匂いを・・いまは日向臭いそれでなくなっている、でも、汗の、懐かしい、子どもの髪の匂いを、うっとり嗅いだりするのだろう。
懐かしい、とても懐かしい、そして、センチだねっと。
註:これは創作です。作者は、こうして仲良くみんなと睦みあえる優しさを、もっていませんでした。てへぺろ。
。旧い?。
さよならという日本語が、世界でいちばん美しい別れのことばだなんて誰かが言ったから、みな、息を呑んでしまったのだ。
すっくと立ちあがって別の誰かは歌い始めた。サヨナラダケガ人生ダ、サヨナラダケガ人生カ、サヨナラダケガ人生ナラバと、道化の踊りは果てもなく、もっとやれ、もっとやれとはやしながら、誰も、互いの目を、見ようとはしなかったよね。
いきなり身を伏せて、どうぞ笑って下さいますな、どうぞ笑って下さいませとぺこぺこ卑屈な誰かの頭は,ぱしんと明快に弾かれた、笑い声を沈めて、ふと、見上げた空には、魔法使いのぶらんこみたいな・・・チンプな表現だったよね、あるいはチープな、やたら赤い三日月がぶら下がっていた。いや。酒など呑んではいなかった、酒で酔っぱらえる夜ばかりではないものね。
ジンという酒は透明で。ジンという名の酒を、てのひらに包んでいたいばかりに、座り込んでいた誰かがいたね。
その店の硝子戸はいつも曇りがなく。鳥がぶつかって気絶しないように、もう少し汚しておいてやったらと提案した誰かもいた。店主は黙って首を傾げて笑うばかりだった。七つ年下のようこちゃんと、店主は、町の教会で結婚したばかりだったんだ。
グラス越しにその窓から見る夕焼けの色を、とても大切に思う誰かを、とっても大切に見つめる誰かのいることを、店主は、ようこちゃんに、話してあげたのかもしれない。きっと、そうだった。
空間は、指のいっぽんより小さな鍵に守られていた。その空間の中にすべりこむのに必要な、一枚の札、もしくはいくつかの硬貨。それだけは絶やしたくなかったのだね、みんな。ざんざか、ざんざか、降りたい放題の雨は、その空間をもっとしっかり庇ってくれていた、その安心感に、あははと笑いだしたいくらいだった、なぜ笑うかって。さて人はどんな時に笑うのでしょう。宿題ですか。宿題です。宿題出してくれるなら、また、会えるんだ。そんな類いのコトバのゲームが、無数に、あったよね。
夜更けに私の部屋のドアを叩いたあの子の胸に、土産のつもりの肉まん三つ、ほかほか湯気を立てていた。熱い番茶をありがとうと受けた声が、素直すぎて、そう、寂しかったよ。お母さんが病気なの。つぶやいて、ふふふと笑った。優しいこと言いたいのよ。まつ毛がまたたいた。かわいそうで、かわいそうで、だから言えないのね、優しいこと一度言ってしまったらと思うとね。怖いのよわたし。
少し途切れて、ひどいわね私、あの子はまた笑った。そうねひどいね。私は答えた。
うんと残酷で意地悪で自分勝手になれたらいいな。
なりなよ。私は言った。なりたいな。あの子は言って、ふるふるっと震えて、きれいな歯型をつけて肉まんをかじった。
なりなさいよ、自分勝手に、私みたいに。私も肉まん、かぶった。見習おうかな、あはは。あの子はぱくぱく食べ終えて、お茶を二杯お替りして、帰って行った。
さよならとは言わなかった。いつだって、じゃ、とか。またね、とか。また、なんて言葉を、信じていたのだね、あの誰か、あの誰か。あの後、お父ちゃんやお母ちゃんの顔になって。今、ときどきは、こじゃれた名前の孫たちの髪の匂いを・・いまは日向臭いそれでなくなっている、でも、汗の、懐かしい、子どもの髪の匂いを、うっとり嗅いだりするのだろう。
懐かしい、とても懐かしい、そして、センチだねっと。
註:これは創作です。作者は、こうして仲良くみんなと睦みあえる優しさを、もっていませんでした。てへぺろ。

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