弥生のおべんきょう Ⅱ
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黒猫アビ
・ひな祭り我のちいさなひな飾り
心にポッと灯りがともる
女のコにとって(いつまでだって、女のコ。)、お雛さまはやっぱり、特別な存在と思います。
女の子の優しい心模様を詠まれての一首、少し厳しくさせてもらいます、この「灯り」が大切に思われて。生かしたく。
理屈を先に立てて言いますと、「ひな祭り我の小さなひな飾り」のままですと、祭り、と我、の間に「に」が要るのです。そして「ひな飾り」でなく「ひな飾る」となる。なんだかゴツゴツ無粋になりそう、で、触らせてもらいますよ、
「雛の日にわれの(我、という漢字よりひらがなが優しい)ちいさなひな飾る心にポッと灯りがともる」
ではいかがか、と。
・春を待つ三寒四温 身につらい
痛みこらえて家事は手抜きに
素直にこのまま生かします。
「春を待つ三寒四温の身につらく痛みをこらえ家事の手を抜く」
先の一首の「ひな祭り」もそうですが、それはひと固まりの言葉。家事を「手抜きに」も、ひと固まりの言葉。それは、どういうことなのか、を、一つずつ考えて言葉を考えて行くと、言葉のまわりに空間が生まれて、自分は何をどう詠みたいのか、が、少しずつ見えてくるのだと思います。「ある」言葉をあてはめるばかりでなく、言葉の意味を、ゆっくり考えてみると、表わし方にゆとりができて来る・・ムズいこと書いてしまいましたが、KUONがこんなことをほざいていること、時々、思い出して下さると、いいな。
・春がきた洗濯物を干しながら
ふと目に映るムスカリの花
冬場から、ずっと春を待ちわびています。
ベランダのムスカリの花が咲くと、春を実感します。
すてきですね。それなら、たとえば「ふと」でなく・・」ふと、は便利な言葉なのですが・・「今朝目に映るムスカリの花」ではいかがでしょうか。待っていた花が、今日、今朝、目に映った。喜びの伝わり方がくっきりしませんか? 細かいようですが、発展途上のアビさんに。随分お上手になっておられる、ものを見る目も確かになっておられる、なので。
ひらりんこ
大切な人を傷つける自分が
父を憎んで父に似ている
自己嫌悪でどん底まで落ち込んだ日に詠みました。
ひらりんこ さんは感情の切り取り方がお上手です。
この一首、ずうっと考えました。「父を憎んで父に似ている」ここ。冷静に「添削し」、筋の通ったうたにするべきなのか。たとえば文法的にはここは・・とか、言いながら。でもそうすると、この激情の火がうすらぐ。
誰だって本当は、憎む父より優しくて甘い父を持ちたい。父に似ている娘である自分に、嬉しくやさしく向き合いたい。なのに、そうでない。
苦しい切ない一首です。このまま残しておきたいと考えるに至りました。
白萩
・闇の中香の漂いてみずからの記憶を辿る これは沈丁花
沈丁花の香りかたって、詠まれているこの通りの感じですよね。見えていない触れていない、香りだけがある、しかもそれは、記憶の中の香り。結句の「これは沈丁花」はからずも1文字余るこの字余りが、余韻を添えています。
・慎ましく咲(え)みて香りもきよらかに沈丁花のごとき人でありたし
え~。お世辞を使う場でなく理由も無いですが、なんとなくそんなイメージの方であります、白萩さん。
・いちはやく水を引く田に陽光(ひかり)射し近づく春を見る車窓かな
・十年前の我をうつして頬ゆるむ 街行く慣れぬスーツ姿に
景色の見方、言葉の選び方、街でみかけるフレッシャーさんたちへの視線も、的確、かつ柔らかいです。
おてもやん
○耳も目もぼんやりとする愛犬の怯えて吠ゆるを撫でてなだめる
パピヨン犬13才、年のせいか人影や物音に吠えるようになりました。
あの大地震も、家族の一員として通り抜けて来た愛犬。幼いお孫さんと一緒に、頑丈な卓の下に眠っていたワンコは、年を取って。孫ちゃんは伸びてゆくばかりですのに。
何かに怯えて吠えるしかないパピヨン、優しい手に撫でてなだめてもらえて、幸せですね。撫でる方の思いはあれこれ、複雑でしょうね。たくさん撫でてあげて下さいね。
○背伸びして玄関のベル鳴らしてはボクですと言う三歳の孫
(笑)。おてもやんさんも的確さを増しておられます。このままで充分な一首ですが、たとえば4、5句をひっくり返して
「背伸びして玄関のベル鳴らしては三歳の孫ボクですと言う」
こういううたい方もあります。内容に変わりはないが、どこか何か、違うのかなあ、など、面白がってくださいね。
欲張ってぐゎんばりたいゆえ、今夜はここまでとさせていただきます。
また、明日。