さびしさに色があるならば
ジャムのかなしみ 終章 (再再掲)
地球に似たる、おきゅう星
その東なる のっぽん国
春には花が咲きまして
夏には海が黒くなる 青すぎて海 黒くなる
秋には思いが深まりて
冬には
言葉が重くなる
かつて姫でもあったげの
バイコがおうちと呼んでいる
ただただ広いその場所の 屋根にも花が降っている
風に巻かれて陽を抱いて
いつまでも花 降っている
バイコは窓辺に一人いる
なすこと無くて ひとりです
誰かが髪を編んでくれ
誰かがパンを焼いてくれ
パンを食べたら また一人
バイコは一人がイヤじゃない
部屋でひとりは イヤじゃない
遠いむかしか通ってた 学校というあのところ
みんながわいわい言っていた みんなははしゃいで弾んでた
あの箱のなかで ひとりいた
そんなひとりは イヤでした
行けなくなった学校もあった気がする あったかな
パパとか呼んでいた人と
確かわたしのママらしい
あの人たちが連れに来て
どこかへ行くからさあおいで
腕をつかんで引き出され
とちゅうでだれかと変わったな
連れて行かれて手を振って
眠っていると つきました
降りて 歩いて ここへ来た
そこで一人でいることは
なんだかイヤな気もあった
知らないひともおりました
みんな薄目で見てました
バイコのことを薄い目で
自分のお部屋に一人いて
窓の外には花吹雪
あの樹は桜と知っている
いつか優しいあの方が
バイコに教えて下さった
しゃぼんの匂いの方でした あそこの子たちもいい匂い
バイコの好きなあのおうち
なかなか行けないおうちです
あれから行けなくなりました
どうして行くかは知っている 車があれば行けるかな
けれど行けないお家です
花が散ります 散っています
音が何もありません
しーんと静かなおうちです
座っていると ずるずると
引きこまれて行く 気がします
いつか眺めた 海の本
海はとっても広くって
信じられない深さだと
いっそ くたくたくずおれて
海の底へも行ってみたい
人魚の姫もそこにいて
せつなく泡になったとか
一人で行ってもいいのなら
あの青かった海の底
見に行きたいと思います
でも行けないと知ってます
バイコはひとり 窓の辺で
ぼんやりと花を見ています。
風が強く吹くときは
花がヴワっと舞い上がる
舞い上がってはまた戻る
バイコはそれを見ています
何と静かないえの中。
皆はどこへ行ったのか
バイコは何もわからない
私でないひと だれなのか
バイコは何も見ていない 覚えていない 泣きもしない
ずっとこのままいるのかなずっとこのままいるのでしょ
夕暮れいろが降りて来て
カーテンを閉じて目を閉じて
ふたたび朝が訪れて そうしてやはり
誰もいない。
いつからここにいるのやら
いつまでここにいるのやら
わからないまま 思わない
きょうもバイコは一人です
明日もきっと そうだろう
一人でないってどんなこと
そんなことさえ わからない
バイコの窓に花が降る
いつ止むとなく花が降る
静かに花の降りしきる
のっぽん国の午後のこと
さびしさに色があるならば
花びら色と思う午後