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Top Page › 雑子のはなし・終章へ向かって › 雑子はバイコがわからない(一)
2019-04-08 (Mon) 20:15

雑子はバイコがわからない(一)

ザツコはわが子がわからない (一)

   イメージ短歌  「どの子なの ワタシの生んだ女の子 名前はバイコ それはわかってる」

      同じくわからないまま  何茶手くおん  代わりて詠める  



どれだけうじうじねちねち言ったって、解決なんかしないのよ。やっぱり煙草に手を伸ばして、雑子は、間抜けなパソコンの画面を、ヤHOオク何ちゃらから、フーチューブの「食べ物さんコンニチハ」動画に移動させた。

何につけ、見つかったり捕まったりするのは、コモノなの。例えばマルなんかが関わっている・・もっと言えば、大きい蔵の鍵をどうこうできる別のバアサンまでが手を貸していることが、どうにかなる訳が無い。警察が何、警察のオオモトは何かを考えれば、と。実家の母は、堂々と言い放っていた。その通りと納得し、忘れることにした。

母はすごい。どんなことも言いくるめて無問題にしてしまう。婚約してすぐの、当時は有名だったデザイナーが、何点だか買ってやったら身の程知らずに「代金をお支払いください」なんてことを、言ってきた、あの時も。猛烈に言い返して黙らせたものだった。母の気持ちは、以下のようだった。雑子自身が同じ思いだったから、よくわかったし、覚えてもいる。

「このワタシタチが、あなたの店の服を買ってあげるの。どこへ嫁ぐ身か、知らないはずは無いでしょう、あまりにも光栄なことと思わないのがフシギだわ、支払えとは何たること、もっともっと、無償でお使いくださいと差し出して来るのが正しい態度ではないの、妹たちの分も、作らせて下さいと、そちらからアタマを下げて来るのが、スジというものでしょう」

その通りなんである。後にデザイナーは、酔っぱらって何やらわめき倒していたとも聞く、厚かましい母子のワルクチだったとも聞く、が。力の大きいものが、勝つ。

ヤHOオクだって。いいかげんに黙りなさいよ、しつこいんだから。

雑子は眠れない。そういえば、その二時間ほど前に、起きだしたばかりだったことを、思い出して。

バイコ。

バイコだ。産んだ時は、嬉しかった。

抱っこして退院した。住まいに帰ったら、何もかもが用意されていて、養育係の一人がバイコを抱き取って、ずっと一緒だったマルが、少しお休みになられますでしょう、とか言って、そそくさと部屋を出て行った。一人でいっぱい、やりたいのだろうと思った。雑子も一人になりたかった。灰皿を探したが見当たらず、何か代わりの物をと見渡したが、赤ん坊用のあれこれしか無く、仕方が無いから自室に戻って、ゆっくりと一本、煙草を喫った。

あ~。こうでなくては。生き返った気がした。私の生活は、こうでないと。

・・妊娠が分かった時、主治医になるという医者は・・それまでにもバイコが生まれるためのあれこれで世話になった医者だったが・・雑子さま、煙草はお止め下さいますね、と言った。きつそうな目をして言った。

「ようやく授かったお子さま、大切なお子さまでございます。タバコはお止めになり、昼夜逆転の生活でなく、朝の陽をお浴びになり、明るいお昼の内に散歩をなさり、無事、お子さまがお生まれになられる日まで、大切にお過ごし下さいますよう」

みたいなことを、淡々と、言ったのだ、ワタシに、あの医者は。雑子を懐妊させたことで、お手柄、と評されていたらしい。調子に乗るんじゃないわよ。雑子はむかっ腹を立てた。

タバコは止めなかった。医師は何度も、赤ちゃんに良い影響を及ぼさないと、何度も忠告してきた。忠告、うるさい。

たまに一本喫えないと、イライラして来るのだ。ストレスがたまるのだ。ストレスを溜めさせてどうするつもりだ。結婚して以来、どんな場合でも、喫煙タイムと喫煙用スペースは確保させてきた。外国からの客が来ていて、広間で食宴をはる、雑子も中の一人として出席してやって来た、ああいう場で何を食べても、集中できなくて美味しくも嬉しくも無いのだけれど。マルが、出て欲しそうにするから。マルの母親が、途中で抜けてもおよろしいのよ、とか、眉毛をへの字にして言いに来るから、仕方なく、何度も出た、途中でもちろん、抜け出していっぷくした。一本では気が済まない。一度に二本は喫いたい。しかもゆっくりと。

ある時には、席へ戻ると、ヨーロッパ人の鼻の赤い大男の王族が、臭いで気づいたのか、目を見開いて雑子を見た。そ知らぬふりをしてやった。表立って文句を言われるなんてことは、無いのだ。びくつくことは無い。

そしてバイコは、きちんと、生まれて来た。実際に抱いた時より何より、雑子は、記者に囲まれた会見の席で、おめでとう、とか。そういった言葉でねぎらわれている自分が嬉しかった。生んだわよ,産んだのだから。そんな気持ちが膨れ上がって、つい、涙ぐんだりもした。

とにかく。生んでしまえばどんなことでも。丸臣の子どもさえ生めば、どんな豪奢だって。

実家の母の言葉が、うわんうわんと体の底に響いていた。

マルは、バイコの誕生を、本当に喜んでいたし。よかった、という気持ちは、当時の雑子の本当の気持ちではあった。

自分も、ミルクを作って、飲ませてやりたいと思った。赤ん坊室へ行って、忘れず手を洗って、確かスプーンに三杯だったわ、と。横目で見ていて覚えていたように、スプーンで粉ミルクを測り、哺乳瓶にダバダバとお湯を注ぎ。ばしゅばしゅと振って、これでミルクはできたわ。

達成感に満ちて、バイコの眠っている部屋へ行った。髪の毛の量の爆発的に多い赤ん坊のバイコは、上を向いてすやすやと眠っていた。頬っぺたが、ぱっつんぱつんに膨れ上がって、ピンクというよりまっかっかで、鼻が頬に埋もれている。

哺乳瓶を卓に置いて雑子は、バイコを、抱き上げようとした。両脇に手を差し込んで持ち上げたら、バイコの頭は、がっくんとそりかえって、途端、うわああああ、と、凄まじい鳴き声が響き渡った。びっくりした。びっくりしたが、手は離さなかった。その時のことを、後でマルに告げると、マルはニマニマと笑って、そうですか、と言った。

「すばらしかったですね、手を離さずに。大したものでしたね」

いつでも、どこでも、マルは、そういったフレーズでその場その場を生き抜いて来ている。何なの、この人は。つまり内心(baka)
と思いながらやり過ごす癖は、すでに雑子に、ついていた。

養育係が飛んできてバイコを下から掬い上げ、アタマを固定して抱き、棒立ちになっている雑子に、

「大丈夫でございます、大丈夫でございますから」
と、気持ちいっぱいの声をかけて来た。

こいつ。雑子が、そんな風に感じた、最初の場面だったかも知れない。

何をエラソーに、私をなだめているの。大丈夫に決まっているじゃないの。私を、何だと思っているの。

ふんわりとバイコを抱いて、柔らかく揺すっている養育係の女に、雑子は、抑えようなく、激しく、イライラしたのだった。





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最終更新日 : 2019-04-08

文章から見えてきて。 * by ぼうこ
雑子さんやばいこさんの
ドキュメンタリー。


* by KUON
・ぼうこ さん

情けない内容ですけどね。きれい、とか、美々しい、とか(同じか)あちららしい雰囲気も、にほひ、も何もない。

空っぽの世界、ですか、これ。

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文章から見えてきて。

雑子さんやばいこさんの
ドキュメンタリー。

2019-04-08-22:22 * ぼうこ [ 返信 * 編集 ]

今も夢見る 

・ぼうこ さん

情けない内容ですけどね。きれい、とか、美々しい、とか(同じか)あちららしい雰囲気も、にほひ、も何もない。

空っぽの世界、ですか、これ。
2019-04-12-19:41 * KUON [ 返信 * 編集 ]