公園デヴュウ
2019年04月13日 公開
イメージ短歌
言わせないワタシが恵まれてるなんて だって夫はコウタイシロよ
何茶手くおん、ヒに代わりて適当に詠める
・・・・・・・・・・・・
両親が、わが子を連れて、公園へ行く。
それが、夫・マルの希望、要望、切望することで。
ある日それは、決行された。バイコを連れて、公園へ行った。雑子もついて行った。夜中に起きているから、昼間は眠い。アタマの中がボンヤリしている。夜に眠りなさいと言われて・・けっこうたくさんの人間が雑子にそれを命じた。眠って、朝に起きて、住まいの庭を清掃しに来る国内あちらこちらの人々の前に出て、ゴクロウサンとにっこり笑え、会釈くらいしてさしあがろ。そう言うのだ。
大したことではない、ほんの数分のことだ、それくらいはしなさい、と。
しかし眠れない。眠剤をのむ。のんでも睡魔は来ない、中途半端にからだが重くなったりする、それがイヤで、しっかり目覚めたいと思う、思って、濃い珈琲を飲む。バランスが崩れるって、こういう感じか。
眠いのかそうでないのか釈然としない状態で、知らない人たちの前に出て。じろじろ見られながら、挨拶しろだなんて。
そんなこと、聞いていなかった。雑子はだから、その義務を果たしたことは無い。意味不明だ、何が会釈しろ、だ。聞けば清掃に来る人たちは、来たくて喜んで来るのだという、なんでワタシが合わせてあげなければならないんだ。雑子の中の理屈は、つまり、そうだった。
マルが、喜んでバイコを連れ出した、あの日。雑子の脳内は、常のごとくクリアでなかった。天気のいい日だった。
これを済ませれば自室に戻れると、それを恃みに。出て行ったのだ、マルに合わせて。仕方なく。
バイコは。バイコもマイペースだった。けっこうな数、そこにいた子どもやその母親たちは、それなりにフレンドリーで。
プリンス・マルと、その一人娘のバイコに、笑顔を向けて迎え、声をかけ、何人かの子どもたちは、バイコの周りで笑ったりおもちゃで遊んだり、していた。
していたと思う。
バイコは皆の中で、浮いていた。マルもそうだった。マルは、からだの前面にバイコを立たせて、愛想を振りまくっていた。
「バイコちゃんのパパですよ~」
「バイちゃんのパパなんですよ~、よろしくね~」
母親たちは笑っていた。そんなこと、誰もが皆、しっていることだった。雑子は、あまりにも笑顔があからさまな夫の態度がいまいましくて、少しだけ身を引いていた、離れていた、離れていたかったのだ。
「バイコちゃんのパパでしゅよ~、か」
身近で声がした。子どもたちの父親かと思われる二人連れが、小さな円陣になっている母子たちから離れて、腕を組んで笑っているのだった。
「朝のラッシュは知りましぇんですけどね~、かあ」
二人連れは、ははっと短い笑い声を立てた。雑子は立ち上がった。二人連れは雑子に気づいたようだった。あ、という感じにはなった。けれど、それだけだった。頭も下げず姿勢をかちんこちんにもしなかった。
ここ、イヤだ。雑子は、マルを呼ぼうとその背中に寄って行こうとした。
バイコが、すぐ目の前にいる同じくらいの大きさの子どもの、ぬいぐるみに手を出して、つかんで、引っ張った。子どもは驚いて体勢を崩しそうになった。母親だろう、抱いている女が、自分の子どもをたしなめる素振りをした。
共について来て目立たないように控えていた者の一人が、さりげない風に母子の円陣をばらけさせようとした。
バイコは、ぬいぐるみを引っ張り続けていた。母親の表情が固くなっていた。バイコはぬいぐるみを、離さざるを得ない風に持って行かれた。抱き上げられたのだ。バイコは大きく暴れ、うわああっと泣いた。
マルは、まだそこにいる、表情を硬くした人々に向いて、まだ、言い続けていた。
「バイちゃんをよろしくね、よろしくね」
その場に中途半端に残って立ち去りにくくいる、もう誰も、微笑んではいなかった。
言わせないワタシが恵まれてるなんて だって夫はコウタイシロよ
何茶手くおん、ヒに代わりて適当に詠める
・・・・・・・・・・・・
両親が、わが子を連れて、公園へ行く。
それが、夫・マルの希望、要望、切望することで。
ある日それは、決行された。バイコを連れて、公園へ行った。雑子もついて行った。夜中に起きているから、昼間は眠い。アタマの中がボンヤリしている。夜に眠りなさいと言われて・・けっこうたくさんの人間が雑子にそれを命じた。眠って、朝に起きて、住まいの庭を清掃しに来る国内あちらこちらの人々の前に出て、ゴクロウサンとにっこり笑え、会釈くらいしてさしあがろ。そう言うのだ。
大したことではない、ほんの数分のことだ、それくらいはしなさい、と。
しかし眠れない。眠剤をのむ。のんでも睡魔は来ない、中途半端にからだが重くなったりする、それがイヤで、しっかり目覚めたいと思う、思って、濃い珈琲を飲む。バランスが崩れるって、こういう感じか。
眠いのかそうでないのか釈然としない状態で、知らない人たちの前に出て。じろじろ見られながら、挨拶しろだなんて。
そんなこと、聞いていなかった。雑子はだから、その義務を果たしたことは無い。意味不明だ、何が会釈しろ、だ。聞けば清掃に来る人たちは、来たくて喜んで来るのだという、なんでワタシが合わせてあげなければならないんだ。雑子の中の理屈は、つまり、そうだった。
マルが、喜んでバイコを連れ出した、あの日。雑子の脳内は、常のごとくクリアでなかった。天気のいい日だった。
これを済ませれば自室に戻れると、それを恃みに。出て行ったのだ、マルに合わせて。仕方なく。
バイコは。バイコもマイペースだった。けっこうな数、そこにいた子どもやその母親たちは、それなりにフレンドリーで。
プリンス・マルと、その一人娘のバイコに、笑顔を向けて迎え、声をかけ、何人かの子どもたちは、バイコの周りで笑ったりおもちゃで遊んだり、していた。
していたと思う。
バイコは皆の中で、浮いていた。マルもそうだった。マルは、からだの前面にバイコを立たせて、愛想を振りまくっていた。
「バイコちゃんのパパですよ~」
「バイちゃんのパパなんですよ~、よろしくね~」
母親たちは笑っていた。そんなこと、誰もが皆、しっていることだった。雑子は、あまりにも笑顔があからさまな夫の態度がいまいましくて、少しだけ身を引いていた、離れていた、離れていたかったのだ。
「バイコちゃんのパパでしゅよ~、か」
身近で声がした。子どもたちの父親かと思われる二人連れが、小さな円陣になっている母子たちから離れて、腕を組んで笑っているのだった。
「朝のラッシュは知りましぇんですけどね~、かあ」
二人連れは、ははっと短い笑い声を立てた。雑子は立ち上がった。二人連れは雑子に気づいたようだった。あ、という感じにはなった。けれど、それだけだった。頭も下げず姿勢をかちんこちんにもしなかった。
ここ、イヤだ。雑子は、マルを呼ぼうとその背中に寄って行こうとした。
バイコが、すぐ目の前にいる同じくらいの大きさの子どもの、ぬいぐるみに手を出して、つかんで、引っ張った。子どもは驚いて体勢を崩しそうになった。母親だろう、抱いている女が、自分の子どもをたしなめる素振りをした。
共について来て目立たないように控えていた者の一人が、さりげない風に母子の円陣をばらけさせようとした。
バイコは、ぬいぐるみを引っ張り続けていた。母親の表情が固くなっていた。バイコはぬいぐるみを、離さざるを得ない風に持って行かれた。抱き上げられたのだ。バイコは大きく暴れ、うわああっと泣いた。
マルは、まだそこにいる、表情を硬くした人々に向いて、まだ、言い続けていた。
「バイちゃんをよろしくね、よろしくね」
その場に中途半端に残って立ち去りにくくいる、もう誰も、微笑んではいなかった。
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