九月のおべんきょう Ⅲ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あさがほ
師の君は彼岸花咲く野を超えて天翔る風となりたまひしか
(恩師ご逝去)
上村松園の絵を思い描いてしまいました。奈良の住まいからけっこう近いところに、松園の美術館があったのです。今はお孫さんの時代ですが、いっとき、憑かれるように絵を見に通っていました。
こんな風に偲んでいただける「師の君」の生の豊饒を想います。
山は寂し海はかなしとたれか云ふ都会の果ても道は昏きに
去年(こぞ)のこと昔の如く若き日は昨日のやうな記憶の不思議
ひと年はひと日に似たり
一生も一日に似て
夕陽あかあか
私が「手を触れる」ところは無いような気もしますが、せっかくなので一か所。
三首目、古典的仮名遣いで詠んでおられますので、「昨日のやうな」は「昨日のやうなる」と、字余りになっても「る」があるといいかななど、思いました。
黒猫アビ
・台風が来るのを予知し鳥たちが
いつもと違う動き飛びかう
自然の生き物は敏感ですね。よく見て捉えておられると思います。どうしようかな、と考えたラスト、あまりいじって説明的になるよりは、「動き飛びかう」のところ「動き 飛びかう」と、空間を一文字入れて、このままにされたらいいのではないか、と。
・待ちわびた秋風感じ窓あけて
自然の風を部屋中みたす
嬉しい一瞬ですね。感じが素直に出ています。「自然の風を」ですと、続きが「部屋中に」と「に」が必要になります。初めのままですと「自然の風に部屋中みたす」となります。「てにをは」難しいと思いますが、たくさん歌を読まれて、できれば声に出して読まれると、なんとなくわかって来ます。実は私が、理論的に言い得ない、ということもあります。
・災害は千代田の一画降りそそげ
水の総裁いるから平気
触ってしまいます、お許しを。
「災害は千代田一画に降りそそげ水の総裁いるから平気」
こういう歌は、イキオイが大切。ゆえに、できれば字余り無しで。・・・と書きましたが、ここはやはり「一画」だなあと思い直しました。失礼しました。
・汗流し拭き掃除する部屋中を
心のモヤも拭き取るように
体調もおよろしいのか、前向きな健康的な一首です。
かりそめ
〈美しき日本〉
*深草少将のごと百日紅ひと日も空けず咲きつぎてをり
恋しいひとのもとへ、ひたすら毎日、通いつづけた深草少将。その少将の、愚直ともいえる一途さに似て、酷暑に褪せず咲きついだ百日紅。いのちのことを考えておられる。
*榠樝の実いまだ小さく尻青し容すなほな楕円形にて
*毬栗に鉄条網に流星に色なき風は傷つかぬまま
こういった一首を、秋の始まりに読める。うたを続けていてよかった、心ぐれなくてよかった、と思います(ホントは立派にグレておりますが)。
〈ありがたき日々〉
*病院に通ふ日かずの減りにけりいつしか椎のたわわに実る
ああ、よかった。よかった。よかったです。
*賜りし健やかな日々祝ふとて週のひと日は鰻の昼餉
鰻、たくさん、召し上がって下さい。体力おつけになって下さい!。
〈祭祀できぬが天皇とは〉
*降りそめし雨のなにしか塩辛し天も悲しみ堪(こら)へきれぬや
*あれほどに堅固に見えし砂の城波ひとつにてどつと崩るる
崩れようが、あからさまで・・・
〈五年前〉
*悲しみは激痛なりと知りたりしみちのくの旅忘れえぬ旅
*命かけ帰る燕の声つらし震災あとのみちのくの空
命をかけて還る燕、帰った先に見たものは、と、うまく感想書けません。