霜月の「みんなのうた」
KUON の詠める
・マリー・ラフォレ巴里に死すとや透明のはなみず際限なき朝に知る
・来む春は落慶法要成るといふ薬師寺の塔の今日の三日月
・しずしずと夜に染まりて行く空を見上げをり共に言葉あらなく
・異国語ばかりの奈良抜けて来て西ノ京の路地の小さきにほっと身を置く
・必要なことばだけ出す必要なときにさういふわれにありたし
・心臓の一部が腐ってゐるかもと吾が夫のことを医師淡々と
・心筋梗塞の痕のはっきり残れりと聞きつつどんな表情われは
・あの時か辛抱でできているやうな夫の崩れて苦しと言ひし
・アラ古稀の夫婦なれどもまだ行くぞまだ休めぬの夫に従き来し
・受けざりとダダこねて検査を拒みゐしを突然死ありと説かれ首肯す
・妻われの困るやうなる死に方をせずとやさしき犬の目をして
・月末にオペをしませう残生を少し延ばさう「うん」と言へ夫
・入院の案内書を読むこの間に眠りたいだけ眠られよ夫
・病院へ夫を預け納豆やもずくを選ぶ 当分要らぬ
・夫入院わたし何をして過ごさうか独りにて生きる練習にかも
アルジェリマン の詠める
新月の虚しき夜は風もなし 雲の切れ間に星ひとつ見ゆ
灰色にけぶる夕闇濃さを増す 黒犬ひたと足取り合わす
霜月の星無き夜の小望月(こもちづき)雲破り出で雲超え昇る
晩秋の満月眺め立ち止まる 夕餉のしたく少し遅らす
寒風に欠けゆく月の昇る頃 濡れ田の上で青鷺の鳴く
濡れ田には稲穂倒れて沈み込む 霜月の風渡る音する
おてもやん の詠める
〇長崎のハウステンボスかわきりに孫と旅して九州制覇
〇首里城に五歳になったら上ろうと素通りの夏今悔やまれる
〇初心者でラグビー始めた息子たちノックオンからルールを習う
〇審判の笛が鳴る度先輩に解説を乞う初心者の親
かりそめ の詠める
*わが祖国ぶあつき霧に覆はれて燐寸擦りてももう火はつかぬ
*退位そも憲法違反であるからに即位もやはり憲法違反
*老いを忌む世相となりて日本に味ある顔の少なくなりぬ
*PCに我が胸のうち晒されて定期検査を無事通過せり
*病院の帰路の紅葉の美しや気がかり失せて我にもどれば
*かばかりの風に紅葉は樹を離(か)りぬまこと真紅は悲しき色よ
*草の絮二度と戻らぬ故郷を去りがたからむ風にのらざり
*二年たち吾の手術を待ちゐたる夫の気持に想ひいたせり
あさがほ の詠める
燃え熾る首里正殿に風疾し八大龍王雨降らせたまへ
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大風に倉庫は破れて幾十年触れざりしままの琴を葬る (台風15号・19号)
あらかたは棄てねばならぬさりながらせめて遂げたし本の見送り
愛せしも忘れ果てしも積ん読も塵掃ひつつ書に詫びる秋
武蔵野の谷戸の料亭渓流の魚は豪雨に流されしとふ (台風19号)
◊ ◊ ◊ ◊ ◊
ラグビーのワールドカップにはかファン俄愛国者の殖ゆる秋なり
覇歌なりき生死のあはひ今超えて命奮はすハカの雄叫び
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三夜四日我が家を訪ひし洗ひ熊家に帰りしか森に消えしか
日一日日脚は縮み身も縮み名もなき家事の積もる夕暮れ
紬着て帯引き締むる明け暮れを夢見しは過去 猫と暮らせば
黒猫アビ の詠める
・沖縄で親族のみにて挙式する
子の晴れ姿あつき目頭
・花嫁の父が掲げる亡き妻の
小さき遺影もともに参列
まめはな の詠める
・茄子の花無駄なしと聞けどベランダの我が鉢咲いて皆落ちにけり
・ベランダの茄子に集りしアブラムシついに隣のトマトに移れり
・石段を這う蟻たちの歩み遅く霜月は早や半ばを過ぎぬ
・オレンジのコスモス支える霜月の空の蒼さを愛(かな)しく想ふ
おおやま よしの の詠める
即位礼や一連の儀式、パレードを拝して
高御座 すわっているの たってるの
立つも座るも 変わらじの君
たかみくらすわっているのたってるのたつもすわるもかわらじのきみ
大雨に 大風で弊 落ちまくる
天が嘉せぬ 君が即位す
おおあめにおおかぜでへいおちまくるてんがよみせぬきみがそくいす
頑張った よく立っていた 歩けてた
普通ができて 褒められる妃
がんばったよくたっていたあるけてたふつうができてほめられるみめ
カーテシー する方もダメ 受けるのも
皇族として 学ばずの妃
かーてしーするほうもだめうけるのもこうぞくとしてまなばずのみめ
涙する また涙する その姿
世界のロイヤル 笑いおるらむ
なみだするまたなみだするそのすがたせかいのろいやるわらいおるらん
動員に 金がかかるの? ヤフコメの
賛美コメント いつもより減る
どういんにかねがかかるの?やふこめのさんびこめんといつもよりへる
黄丹袍 召す宮こそが ふさわしい
高御座また 御身待つらむ
おうにのほうめすみやこそがふさわしいたかみくらまたおんみまつらん
国母への 覚悟持ちたる 皇嗣妃の
御姿こそは 白百合の花
こくもへのかくごもちたるこうしひのみすがたこそはしらゆりのはな
正真の 雛が二人 おわします
眞子姫佳子姫 光纏って
しょうしんのひいながふたりおわしますまこひめかこひめひかりまとって
大嘗の 炎が映す 眞子様の神々しさよ 天上の皇女
おおなめのほむらがうつすまこさまのこうごうしさよてんじょうのひめ
あさがほ の詠める
夫の命救ひたまへと祈りしは神にはあらず魔との取り引き
(15年前の夫の大手術)
白萩 の詠める
かえり咲く源平桃や この花の春ひらく頃我が子産まるる
木犀の香をいっぱいに吸い込んだ お腹の子にも届けとばかり
戌の日に両家揃いてお参りのできる幸せ 空もうつくし
鉢植えのポインセチアをちぎっては付けたか后の襟のビラビラ[祝賀御列の儀1]
オープンカーふさわしき方は居られます すみやかに去れ 次代に譲れ[祝賀御列の儀2]
おつむりを打ちたる帝 ノシノシと歩む后はまるで新喜劇
[大嘗祭1 吉本の皆様ごめんなさい]
幽玄の世界に映ゆる白き御衣(おんぞ) 貴(あて)なるかんばせ花の如くに
[大嘗祭2 皇嗣妃殿下]
天上の青 の詠める
みとせ振り 姉との再会
その途端 昨日の続き
口から溢れり
ギボウシ の詠める
ステージ4で「やりたい事」を語る君 きっとできるよ 一緒にやろう
痩せこけて 鬘かぶりて海眺む その横顔の美しきこと
まだ元気 奇跡はあると思えども あふれる涙 何を伝えん
ホスピスの順番待ちと告げる君の朽ちゆく身体 光放てり
ゴネコ の詠める
ゴネちゃんは普段は何をしているの?聞かれてすぐに答えられずに
ゴネちゃんは先生だよね僕たちのそうだよそうだよ先生だよね
小さき子の笑顔につられ大笑いこんな私に驚く私
辛いこと嫌な友達学校も心休まる時はあるのか
ゴネちゃんは勉強好きなの嫌いなの?私は嫌い意味不明だもん
ゴネちゃんがノートに書いてくれるでしょ私はそれがすっごく好きなの
パールの詠める
☆あと五分布団の誘惑強すぎて秋もまた暁を覚えずのわれ
☆がんじきで心の病葉集めたい落ち葉焚きして燃やし尽くしたい
★何しても何を着ようがどんよりと汚れた空気醸し出す人 <下こうごう>
★幾度書き幾度望めば叶うのか終われよれーわ終われよれーわ
玉兎と茜馬
かの人の
破顔見るたび
胸のそこ
奥深くにて
根付きゆくとげ
アルジェリマン の詠める
隠れ家を作らんと子ら背の高きススキの原に入り込みゆく
ススキ野は見渡す限り風に揺れ銀に輝き子ら誘い込む
センダンの木から見下ろすススキ野の先に聞こゆる汽車の警笛
子分らを引き連れボスは図書室の吾を呼び出す 話があると
雑魚わめく鶴翼の陣 吾ひとり気楽に進むボスの前に
吾ひとり気ままなるのを許せんと雑魚わめくはまことに不思議
話などないけど雑魚がわめくから君をここへと呼んだだけだと
そういえば君と初めて話したね 小学6年どんぐりの季節
早熟の大人びた友 少女らが集まり慕いボスとあがめて
冬来たり休み時間に全員で歓声挙げて押しくらまんじゅう
故郷(ふるさと)を離れる吾と残る友 校庭の奥にどんぐりを探す
センダンの洞(うろ)に手紙とどんぐりを忍ばせ二人教室に戻る
おおやま よしの の詠める
背の君を 案じる師をば 案じます
ご快癒の日を 祈りおります
温泉郷 の詠める
黄砂去り秋晴れの空澄みわたる日本の大気清浄にあれ
今年の十一月は、何かとこころの落ち着かないものであったと思います。
それでも、毎月のこのうたの集いに参加して下さった方々。ありがとうございました。
次の月もまた、詠草をお待ち申し上げております(まだだけど・笑)。
また。よろしく。