カサブランカ
歳末、最高に押し迫った朝に、その花は、届きました。
「もろてんけどな、うちら、旅行に行くねん。留守番さしといたら花、アカンようになってしまうやろ。」
知人は、夫さんと、三泊の旅に出るという。冬のことではあるし大丈夫だろうとも思ったが、フト、忙しい・この時期に転んだと聞いたワタシを思い出したらしい。・・・花の守り、さしたろ。気ィもまぎれるやろ。
ほなね、行って来るわね~よろしく~。と知人は去りぬ。
・・立派な花束です。花は好きです。好きだけど、気のすむまでに大きくて豪華な花束を、日常的に買えるものでもない。固定したままの左腕でかろうじて抱き、左を庇ってこちらも痛くなっている右腕で、早くもしょんぼりし始めている何とかいう花を、つまんでみる。同じ花でも、元気な花と、ちょっとアカンげな花とある。
メインとしては、白い大きな百合が、三本、絢爛と咲いている。、咲き誇っているってこういう感じ。半開きが二本、固い蕾が二つ。真紅の薔薇が五本。それとカスミソウやら(私は)名をしらない花たち、あれこれ。
花があるといいなあ。目が行くたびに、綺麗で楽しい。香りはわからない。私は鼻ツン。
腕のリハビリや~っと自らを奮い立たせて、毎日水を換えてやる。ヒマですし。来た時よりも生き生きなったわ、と喜ぶ。
これは無理やろ、よお開かへんかな、とそおっと指で撫でてやった一輪が、今朝、思い切り伸び伸びと開いてくれたんです。
固い固いつぼみでした。んん、と身震いして何の迷いもなさげに、一気に咲いた。一瞬いきを呑む感じでした。
百合系の花には、あまり魅かれて来なかった。私は薔薇が好き、と、思い込みのように思って。
今もマイペースで咲いている真紅の薔薇、いいなあと思います。
思いつつ、カサブランカ。オリエンタル・リリー。
いいなあと、気持ちがほころんでいます。きっと顔もほころんでいる。綺麗だわ、大輪の百合。
カサブランカ。そんなタイトルの映画があった…バーグマンは、まこと気品に満ちた女優さんでした。
カーザ・ビアンカという歌もヒットした、なんという名の歌手だったか、どこの国の花だったか、カタコトめいた日本語が切なかった。
ゆ~め~の~カーサビアンカ~し~ろ~いお家は~、と唄っていた。「白い家」という意味だと知った、あの時に。
そして思いはジュリーに帰って行く、カサブランカ・ダンディ。
いい時代だったと思う、ジュリーが、若くて、美しくて、きらっきらでいて、何よりも歌の「いい」歌手だった。
なんてことも思い出し・・・ヒマだから(笑)。
ひっそりとしぼんでくったりしている小さな添え物にされていた花たちも、つまんで集めて、人が踏まないあたりへ、植え込みの陰へ、葬ってやる。
お正月は終わり。明日からは、と、胸の奥でガッツポーズつくります。